「こち亀」終了に思いそれぞれ みんなの、どこかに刺さる作品だった

[ 2016年9月20日 09:15 ]

「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の最終話が掲載された「週刊少年ジャンプ」42号の表紙(C)週刊少年ジャンプ/集英社

 週刊少年ジャンプの人気漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所(こち亀)」が1976年から40年続いた連載を終了した。

 一つの漫画の終わりに、これほど世間がざわついたことがあっただろうか?と感じた2週間だった。

 始まりは今月3日、作者秋本治氏による突然の“完結宣言”。東京・神田明神で「こち亀絵巻」奉納後の会見中だったから、報道陣も驚いた。

 連載終了があまりに衝撃で、報じられなかった秋本氏の会見中の言葉がある。恐らく最も楽しそうに話し、そして長寿連載の核になった点だと思うので、紹介したい。

 記者は、絵巻を奉納した神田の地への思いを聞いた。秋本氏は「浅草生まれの両さんを、どこか他の場所で動かそうと考え、神田でお寿司屋さんをさせることにした。子供の頃から馴染みがある場所で、下町情緒もあり好きだったからです」と話した。

 両さんは神田で寿司店を営む「擬宝珠(ぎぼし)家」に出入りするようになり、同家の娘纏(まとい)と結婚話も持ち上がる。これは立ち消えになったが、その後も同家と家族のような時間を過ごす。

 秋本氏は「神田での両さんは、家庭の両さん。僕も描いていて楽しかった。普段は描けない両さんを描けた」と笑顔だった。

 この「擬宝珠家」実はオールドファンには馴染みが薄い。初登場は1999年。今の40代が社会人になり、漫画を離れた頃だ。

 だが若いファンにはお馴染み。単行本118巻に初登場。今思えば“折り返し”を過ぎたこち亀の、1つの軸だった。こち亀は、秋本氏が常に新しい題材に挑戦し、両さんの人間的な幅を広げてきたからこそ長寿連載となった漫画なのだ。

 作品自体も「ギャグ漫画」と定義されるが、マニアックな趣味の世界から時事ネタ、人情ものなど多様な題材を徐々に取り込み、ノンジャンルな漫画となっていった。

 連載40年は、小中学生を中心とするジャンプ読者を中心に、ファンを増やし続けた歴史でもある。それぞれの世代に、それぞれのこち亀像、両さん像があり、お気に入りの話がある。きっとみんなの、どこかに刺さる作品なのだ。

 “卒業”していった人もいるだろう。記者もそうだが、時々ジャンプを手にして、続いていることに安心する人も多かったのではないか。1話完結だから、しばらく読まなくても、ふらりと読者に戻れるのが嬉しかった。

 “こち亀ラストデー”の17日。記者は都内の書店を取材した。連載開始当初を知るであろう50代から中学生まで幅広い世代が、ジャンプと200巻を持って列を作っていた。女性の姿もあった。

 記者は200巻とともに、初めてこち亀に触れた42巻(これが古本でなく新刊というのも凄い)などを買った。30年前、こち亀に大笑いし、ジャンプを毎週楽しみに読んだ小学生の頃を思い出した。そして本当に、こち亀は終わるんだと寂しくなった。

 40代の自分は、恐らく2度とこんな漫画には出合えないだろう。今の子供たちが数十年後、記者と同じような思いをできる漫画が出てきてほしいと思う。(記者コラム)

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