野田洋次郎 がん宣告された青年を好演 デビッド・ボウイの道

[ 2016年1月21日 06:00 ]

スポニチグランプリ新人賞を受賞した野田洋次郎

2015年毎日映画コンクール

 【スポニチグランプリ新人賞 野田洋次郎】マイペースで、抑揚の少ない語り口。どっしりとしていて、言葉にうそがない。野田は「僕がちゃんと俳優として見えていたのなら、共演者の方たちのおかげ」と、控えめに受賞を喜んだ。

 手塚治虫さんが日記に書いた構想を原案とした「トイレのピエタ」。演じた園田宏は、絵の才能を持ちながらも、窓ふきのアルバイトで毎日をやり過ごす男。だがある日、がんで余命3カ月と宣告される。未来の見えなかった宏の心は揺れ、死を前にしてため込んできた絵に対する思いを爆発させる。その感情の移り変わりを見事に演じた。

 ロックバンド「RADWIMPS」のボーカル、ギターだ。詞・曲も手掛けている。松永大司監督がオファーしたのも、「何かモノを作っている人が良い」という理由。演技未経験ながら主演に抜てきされ、「監督には“大根(役者)の可能性がデカいですよ”と言った」と笑った。

 脚本を一読した時から、宏に親近感を感じたという。「僕は音楽をやってご飯を食べていけてるけど、やっぱり芸術の世界はそこが凄く曖昧。宏は、いつでも自分に起こり得る姿」。自分と役柄を重ね、「宏はこんなこと言わない」と脚本にも意見を出した。宏目線で居続けたのだ。

 「演じたのか、素の自分のままだったのか」ということがいまだに分からないほど、役に入り込んだ。「死ぬのが怖かった。音楽の現場に戻った時、生きてる自分がうれしかったし、音楽を作ってる自分が幸せだった」と明かすほど。共演した杉咲花(18)やリリー・フランキー(52)、大竹しのぶ(58)ら、個性の強い俳優にも負けない存在感だった。

 あくまでも音楽家だが、今後も演技に挑戦したい気持ちはある。「僕は“自分がいたから生まれた作品”、“自分だからできた作品”ということをモットーにしている」と強調。「この役は自分しかない」と直感した時、スクリーンに帰ってくるはずだ。

 宏は死の直前、取りつかれたように絵を描いた。これに深く共感した。「デビッド・ボウイもアルバムを残して亡くなった。音楽家なら誰しもがそうありたいと思うこと」。10日に亡くなったボウイさんも「戦場のメリークリスマス」など俳優としても活躍した。野田にもそんな道を歩いてほしい。

 ◆野田 洋次郎(のだ・ようじろう)1985年(昭60)7月5日、東京都生まれの30歳。幼少期を米国で過ごす。01年に「RADWIMPS」を結成、06年にメジャーデビュー。昨年は5カ国を巡る海外ツアーや、対バンツアーを行った。1メートル80。血液型A。

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