【内田雅也の追球】イズムの「ワン、シュア」1つのアウトを確実に取れ 消えた重殺プレーの練習

[ 2023年2月22日 08:00 ]

ケースノックで岩貞(左端)は三塁走者・高山を挟殺(手前〈3〉は一走・大山)(撮影・大森 寛明)
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 沖縄・宜野座の阪神キャンプで今年からなくなった練習がいくつかある。なかでも監督・岡田彰布の思いが象徴的に現れているプレーがある。

 1死一、三塁。投前にボテボテの緩いゴロが転がる。1―6―3併殺は無理なので三本間で三塁走者挟撃となる。この間に一塁走者は二塁を回り三塁を狙う。

 この時、三塁への送球で先に三進を狙う一塁走者を刺し、再び三塁走者を挟殺する。2人とも走者を刺すわけである。

 この重殺プレーが練習から消えた。この日の投内連係・ケースノックでも何度も1死一、三塁、投前ボテボテが行われたが、重殺は試みることもなかった。一塁走者の三進は許しても、三塁走者を三塁まで追い込んで1人をアウトにする。三塁上に2人の走者が立つ形を作るのだ。しかも、三塁には投げず、ボールを持ったまま追いこむように念を押していた。

 「リスクを減らして、確実にアウトを取るということです」と、練習に参加した投手・岩貞祐太が話していた。「今まではアウトにすればOKで流していましたが、よりリスクを減らそうと」と送球よりも追い込む形を繰り返した。「チームで統一していきたい」と投手陣の輪で話し合った。

 「ワン、シュア」とヘッドコーチ・平田勝男は言った。「1つのアウトを確実に取れ。1人をアウトにすればそれでいい、というのが監督の考え。2つのアウトを狙って2人とも生かしてしまっては元も子もない」

 何度か書いてきたが、岡田は「あわよくば」という考え方を嫌う。うまくいけば、2死を奪えるといった欲張りな姿勢には、必ずリスクが伴う。難しいプレーよりも確実に、堅実にいきたい。それが岡田の野球である。岡田イズムと言えよう。

 以前も書いたが、一、三塁での重盗封じでも、捕手の送球先に最も基礎的な「投手返し」「投手カット」を復活させた。中継の二塁手への送球や定位置の遊撃手(二塁手)への送球よりもリスク(ミス)は少ない。

 走者の進塁を許しても「次の打者で抑えればいい」と安全策をとる。自らを「マイナス思考」という岡田は確実、堅実、そして安全を好む。

 「勝負の鬼」と呼ばれた巨人V9監督、川上哲治は「石橋をたたいても渡らない」とまで言われた。勝つためには、そんな堅実さが必要なのかもしれない。=敬称略=(編集委員)

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2023年2月22日のニュース