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【内田雅也の追球】時代を映す日本シリーズ 長引くコロナ禍の閉塞(へいそく)感吹き飛ばす戦いを

[ 2021年11月20日 08:00 ]

95年、日本シリーズ第5戦でシリーズ初本塁打を放つオリックス時代のイチロー

 京セラドーム大阪のオーナーズ・スイート入り口には日本シリーズ優勝カップが飾られている。1996年のものだ。

 オリックスの日本シリーズ出場は以来、25年ぶりだ。そしてヤクルトと顔を合わせるのはその前年95年以来となる。

 あのシリーズは遊軍として全試合取材した。結果は4勝1敗でヤクルトが日本一となったが、印象深かったのはオリックスの奮闘だ。本拠地・神戸は同年1月17日の阪神淡路大震災で甚大な被害を受けた。「がんばろう! KOBE」を合言葉に復興に向かう街や人びとの希望の灯となった。

 日本一が決まった第5戦、本紙観戦記で作家・評論家の小中陽太郎が<野球は偉大なことができる>と書いた。ヤクルトのトーマス・オマリーが神宮右翼席に2ランを放った際、ヤクルトファンが広げた青い傘が<神戸への応援歌にも見えた>という。<時代の移り変わりを野球のなかに見て取る>とする姿勢があったからだろう。

 「スポーツを語ろうと思う時、スポーツだけを見ていたのでは、本当のスポーツの良さは見えない」と山際淳司が語っていた。夫人の山際澪が『急ぎすぎた旅人――山際淳司』(マガジンハウス)に書いている。時代背景や流行を<知った上でなければ、スポーツの面白さは語れない>。

 プロ野球は時代を映し出す鏡なのだ。長引くコロナ禍、息苦しく、生きづらい世の中である。そんな時、セ・リーグもパ・リーグも前年最下位から優勝を果たしたチームが日本一を争う。史上初めてのことである。

 昨年から今年と、どん底からはい上がってきた戦いぶりは共感を呼ぶ。今の苦しい生活を重ね合わせる人も多い。苦労や辛抱も、いつか報われる時が来ると信じたい。

 26年前、胴上げ投手となった高津臣吾、悔しく敗れた中嶋聡はともに52歳となり、監督として率いている。野球記者の草分け、リング・ラードナーが「この世で一番みじめなのは年をとった野球記者だ」と書いている。伊東一雄・馬立勝『野球は言葉のスポーツ』(中公文庫)にある。ワールドシリーズも「顔なじみの連中と昔の野球の思い出話をする、いい機会というに過ぎない」。

 わが身を思う。年はとったが、プロ野球最高峰の戦いに立ち会える。時代の閉塞(へいそく)感を吹き飛ばす戦いを楽しみに、興奮している。 =敬称略= (編集委員)

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