早実→早大→日本ハム…歴代担当記者が語る斎藤佑樹の素顔
日本ハム・斎藤佑樹投手 今季限り現役引退
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《記者の心理読まれていた?満点の返答 05、06年アマ野球担当・尾辻剛》したたる汗ではなく歓喜の涙を青いハンドタオルで拭った斎藤は言った。「人生最大の、一番幸せな日になりました」。駒大苫小牧・田中将大(現楽天)に投げ勝ち、早実を日本一に導いた06年夏の甲子園。力強い直球と切れ味抜群のスライダーを駆使した投球に加え、爽やかなルックスでフィーバーを巻き起こし、連日大量の原稿を書いた。
きつい作業ではあったが、楽しくもあった。いつも気の利いたコメントをしてくれるからだ。「王さんを元気づけるためにも勝ちたいです」。当時、胃がんの摘出手術などで入院中だった大先輩・王貞治氏(ソフトバンク球団会長)について質問すると、満点の返答。大阪桐蔭との2回戦で1学年下の中田翔(現巨人)を3三振に斬ると「経験の分、自分の方が上だと確信しました」と胸を張った。こちらの目を見て、真っすぐに答える。本人は自然体なのだろうが、打者心理を読むのと同様、こちらが欲しい答えを読まれているような感覚もあった。
7試合948球を投げ抜き、最後は決勝再試合を制するドラマチックな優勝。「甲子園という舞台が自分の力以上のものを出させてくれました。自分を成長させてくれました」。投球もコメントも、本当に書きがいのある投手だった。(整理部デスク)
《“非常識電話”への返事に心つかまれた 07、09~10年アマ野球担当・白鳥健太郎》あれは10年12月31日の夜だった。私は意を決して斎藤の携帯を鳴らし、用件を伝えた。「実は明日のうちの新聞に“斎藤熱愛”の記事が出る」――。
当時、斎藤は早大4年生。日本ハムに1位指名され、プロ入り前のつかの間の自由な時間を使い、家族と旅行中だった。そんな団らんの時間に水を差すような、大みそかの非常識な電話。「いったん、切ります」。おそらく家族で対応を話し合ったのだろう。数分後、折り返しの電話で斎藤はこう言った。「連絡していただき、ありがとうございました」
早大時代、斎藤と接した周囲の人間はみんな、その人柄に魅了されていった。早大の応武篤良監督はドラフト後の会見で「息子を取られるような気持ち」と話し、大学日本代表を率いた近大の榎本保監督、青学大の河原井正雄監督は「自分のチームの選手よりかわいい」と口をそろえた。
あの大みそか。数分の間に家族で何が話し合われたかは分からない。しかし、罵詈(ばり)雑言を覚悟していた私も、あの予想外の返事で完全に心をつかまれてしまった。結局、諸事情で「斎藤熱愛」はお蔵入り。自分でつかんだネタではなかったが、新聞記者としては紙面化できず悔しがらないといけないのかもしれない。だが、斎藤はあの時、プロ入り前の大学生。今では紙面化されずに良かったのだと思っている。(新潟支局長)
《「2軍でもがき続ける姿」後進に伝えた 11、12年日本ハム担当・伊藤幸男》理想と現実のギャップに悩み抜いた11年間だった。プロ入り直後は早大時代の勤続疲労に耐えつつ1メートル76、77キロの体を駆使し、周囲の期待に応えようと投げ続けた。甲子園V腕のプライドもあったはず。150キロ台の本格派を目指した一方、打者が嫌う内角攻めは多用しなかった。
他球団のタイトルホルダーから聞いたことがある。「甲子園の印象が強かったけど、懐に来なかったらあの球威なら踏み込んで5割は打てます」。14年以降は投球術に活路を見いだそうとしたが、モデルチェンジはうまくいかなかった。
記者にとってここ数年イースタン・リーグでもがく姿は痛々しく映った。それでも周囲の雑音を受け入れつつ、前向きな姿勢を貫き通した。ボロボロになっても再び1軍の戦力としてチームの勝利に貢献する。それが大好きな野球に対する情熱であり、後進に伝えたかったメッセージなのかもしれない。
19年12月には早大グラウンドで野球教室に参加。「数あるスポーツから野球を選んでくれた」と小学生に熱い指導を繰り返した。社会現象まで巻き起こした斎藤佑樹だからこその重みを感じた。彼に感化されて野球を始めた選手が、成長して大舞台に立つ姿を見たい。(特別編集委員)
《間違いなく球界に影響与えた「功労者」 08~11、14~16年日本ハム担当・横市勇》27歳になっためいっ子がまだ中学生の時、「嵐の相葉君と、ハンカチ王子が好き」と言っていた。大して野球に興味のない女子が、斎藤がマウンドでハンカチで汗を拭う姿にときめいたのだ。
ダルビッシュ、大谷、佐々木朗と大物を担当してきたが、斎藤の存在感は別格。新人合同自主トレではNHKなどがヘリコプターを飛ばして空撮するほどだった。
雑談の中で「30歳で現役引退して、新しいことに挑戦したい」と人生設計を聞いたこともある。30歳を過ぎてもユニホームを脱がなかったが、2年目の6月に右肩を故障してからは、成績も残せなくなった。このままじゃ終われない。そんな気持ちが高まったのだろう。「僕の横投げって、どう思いますか?」と聞かれたことも。サイドスローに転向して生き残ろうと考えた。周囲の反対で実現しなかったが、再びマウンドで輝くため、泥くさくもがいていた。
現役の晩年は世間から厳しい声もあったことは承知しているが、個人的な意見として言わせてほしい。学童から中学、高校、大学、社会人、そしてプロを含め、ハンカチ王子の登場が、どれだけ野球界に大きな影響を与えたか。プロでは不完全燃焼だったかもしれない。それでも、斎藤は間違いなく「球界の功労者」だと思っている。(ロッテ担当)
《東京五輪までは…「選ばれなくても現役で」 16~19年日本ハム担当・山田忠範》斎藤にとって故障との闘いでもあった現役晩年。モチベーションの一つが東京五輪だった。登板わずか3試合で未勝利に終わった18年のオフ、千葉・鎌ケ谷の2軍施設で雑談した際に五輪の話題となり「もちろん日本代表に選ばれるのが理想だけど、選ばれなくても絶対に現役で野球を続けていたい」と語っていた。当時から体は各所で悲鳴を上げていたが「2020年までは…」の思いがあったのかもしれない。斎藤の根底にある思いは「野球へのリスペクト」。仲間に恵まれ、指導者に恵まれ、甲子園で頂点に立ち、プロでもプレーできた。だから日本の野球を世界にアピールでき、さらに自国開催でもある五輪は特別な舞台。それを現役選手として見るか、引退した立場で見るか、そこには本人にとって決定的な差があったのだろう。コロナ禍で五輪は今年に延期となったが、斎藤も現役を続行。侍ジャパンの金メダル獲得は、斎藤にとって特別な瞬間だったに違いない。
数日前、電話すると「肩が痛い。でも医者は治ると言ってくれている。もちろん来年も現役を続けたい。どうすればいいか…」と揺れる胸中を明かしていた。最後の最後まで現役の道を模索した末の決断。まずは、ゆっくりと体を休め、野球人生の「第2章」に向かってもらいたい。(スポーツ部デスク)
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