張本勲氏、80歳誕生日の「6・19」開幕に感慨 「あっぱれ」と言えるシーズンに

[ 2020年6月20日 08:00 ]

 都内の自宅で開幕戦をテレビ観戦する張本勲氏
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 ついに、野球が帰ってきた――。新型コロナウイルスの感染拡大という国難ともいえる非常事態。長くプロ野球とともに生きてきた本紙評論家の張本勲氏は、くしくも新たな開幕日に80歳の誕生日を迎えた。前例のないシーズンへ、球界の大御所がチーム、選手、そしてファンにメッセージを送った。

 桜が散り、風薫る緑の日々が過ぎ、梅雨の季節になった。そんな日常に野球が帰ってきた。球界OBとして、野球を愛する者として何よりホッとしている。

 世界中がコロナ禍に苦しみ、日本も国難ともいえる苦境にあえいでいる。スポーツ界も同様だ。その中でプロ野球が先陣を切ってスタートする。本当にそんな日が来るのか、と思ったこともあった。偶然だが、6月19日は私の誕生日。80歳、傘寿だ。例年なら春に開幕するプロ野球。誕生日と一緒になることはありえない。試合は自宅でテレビ観戦した。一生忘れることのできない一日になった。

 改めて思う。平和だからこそ野球ができるのだ、と。私は戦火の足音が迫る1940年に生まれ、5歳の時に広島で被爆した。戦争は敵の姿形が見える。終わりもある。しかし新型コロナウイルスは姿が見えず、いつ襲ってくるか分からない。世界の死者は約45万人。こんな日が来ると、誰が思っただろう。まだまだコロナとの闘いは続く。そんな中でのプロ野球の開幕は、我々が日常を取り戻すための第一歩でもある。

 120試合に短縮される異例のシーズン。どうだろう、今季は個人成績はあくまで参考記録としてみては。例えば10勝で最多勝、30本未満で本塁打王…。そこに大きな意味はない。特別な年。特別な思いを込めるには、チームで一丸となって戦うことにこそ大きな意味がある。全員で戦い、苦難を乗り越える。その姿こそが今、スポーツが見せる力ではないだろうか。

 選手は必死にプレーしなければならない。常に応援してくれるファンと、年俸を下げることなく開催へ尽力してくれた球団への恩返し。確かに開幕前の準備期間は短かった。しかし疲れた、しんどいは禁句だ。プロとしてのプライドを胸に秘めて試合に臨む。ファンは、そんな誇りがにじみ出るプレーが見たい。だからファンの方も、それができていない選手がいたら厳しく指摘してほしいと思う。

 振り返ると、私自身は開幕戦はあまりいい思い出がない。結果も残していない。また過酷な、神経をすり減らす日々が始まるのか――。現役時代はずっとそんな思いでいた。今日、テレビ越しにプレーしている選手の姿を見た。野球ができる喜び。それを決して忘れず、とにかく必死にボールを追ってほしい。そして選手にも、いずれ球場で観戦するファンにも感染者が出ることなく、無事に120試合を終えてほしい。異例の、それでいて「あっぱれ」なシーズンになることを、心から祈っている。 (本紙評論家)

 《自らの開幕戦には喝!?》自ら「いい思い出がない」という開幕戦に、張本氏は入団1年目の59年から23年連続で出場している。通算成績は77打数16安打の打率.208。日本球界最多の3085安打を放ち、イチロー(オリックス)と並ぶ最多タイの通算7度の首位打者に輝いた打者としては、驚くほど低い数字だ。プレッシャーと闘う日々のスタート。張本氏は「暖かい季節になって徐々に状態が上がっていったね」と回想する。

 ◆張本 勲(はりもと・いさお)1940年(昭15)6月19日生まれ、広島県出身の80歳。浪商(現大体大浪商)から59年に東映(現日本ハム)に入団。1年目から外野手としてレギュラーに定着し、新人王に輝く。76年に巨人、80年にロッテへ移籍。23年間の現役生活でプロ野球最多の通算3085安打を放つ。通算打率.319、504本塁打、1676打点。首位打者7回。MVP1回。90年野球殿堂入り。

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