高津氏が分析…西村は気持ちとボールコントロールできず

[ 2013年11月1日 11:00 ]

<巨・楽>10回1死一、二塁、銀次(左)に勝ち越しの中前適時打を打たれる西村

日本シリーズ 巨人2-4楽天

(10月31日 東京D)
 シリーズの独特の重圧が絶対的な守護神を変えてしまった。楽天が激戦を制して王手をかけた日本シリーズ第5戦。スポニチ本紙評論家でヤクルト投手コーチに就任した高津臣吾氏(44)は、巨人は守護神・西村がシーズン通りの投球ができなかったと指摘した。同点で迎えた10回、西村は気持ちとボールをコントロールできなかったと分析。巨人は打線に不安を抱え、満を持してエース・田中を第6戦に送る楽天は日本一へ大きく近づいた。

 これがシリーズの怖さなのだろう。痛恨の2失点で敗れた巨人・西村の気持ちは、同じクローザー経験者として痛いほど分かる。

 【延長10回、いつもの精神状態を保てなかった西村】1点ビハインドの9回から登板した西村。負ければ王手をかけられる。試合展開から、延長戦に入ったら2イニング目の続投もあると分かっていたはずだ。しかし、いざ同点となって上がった10回のマウンド。それまでの精神状態とは明らかに違っていた。

 先頭の投手・則本に3ボール1ストライクから完全に外れて四球。バントで送られた1死二塁の場面も、初球を藤田の足にぶつけてしまった。シーズンは球団新記録の42セーブ。マシソン、山口と絶対的なリリーフ陣を形成してきた。その守護神が考えられないような2四死球だ。そして1死一、二塁から銀次への5球目はサイン違い(ボール)。この局面であり得ないミスで、直後にタイムリーを打たれた。

 シリーズという舞台は独特だ。見えない力がどこからかかかる。「絶対に勝つ」という相手のプレッシャーを普段以上に感じるゲーム。そのプレッシャーを、いかに強い気持ちではねのけ、のみ込まれないか。ただ投げるだけじゃない。そういう精神面の勝負が求められるのがシリーズだと思う。世界一になったレッドソックス・上原もそうだと思うが、クローザーとして、シリーズのマウンドではどうやって冷静に熱く燃えられるかを考えてきた。相反するようでその両面が不可欠。西村は、そうしたボールと気持ちのコントロールの強弱ができなかったように見えた。2四死球のピンチから連続タイムリーの要因はそこにある。

 【星野采配を可能にした辛島の緩急】先発の左腕・辛島はスピードがあるわけでも、驚くような変化球があるわけでもない。最速140キロで5回をわずか1安打無失点に抑えた。

 素晴らしいのは、しっかり腕を振って緩急をつけたことだ。第4戦で楽天投手陣は12四死球で逆転負け。先発投手はそうした悪いイメージを抱くものだが、プレッシャーを振り払って腕を振り、丁寧に低めを突いた。これだけ腕を振られると、打者はタイミングを合わせるのが難しくなる。球速はなくても直球に詰まり、チェンジアップを軸にした変化球に泳がされる。象徴的なのは4回。坂本をチェンジアップで空振り三振、阿部は直球で詰まらせて浅い左飛に仕留めた。阿部への初球は121キロのチェンジアップ(ファウル)、打ち取った2球目は136キロの直球。その差は15キロだが見事な緩急だった。

 この辛島の好投が、則本の6回からの投入を可能にした。星野采配の陰のヒーローというより、則本とともに表のヒーローと言っていいだろう。

 【苦境の巨人と王手の楽天】絶対的なリリーフ陣が崩れた巨人。王手をかけられて迎える第6戦の楽天・田中の壁は確かに高い。ポイントは先発が予想される新人・菅野だ。打線が不振なだけに、田中からは取れて1点か2点。いかに先制点を与えず、接戦に持ち込むか。制球の安定している菅野なら投手戦に持ち込むにはもってこいの投手でもある。

 田中を第6戦に残している楽天は理想的な展開だが、何が起こるか分からないのが短期決戦。もしも第7戦にもつれ込むようなことになれば、総動員をかける準備をしてくるはずだ。第7戦の先発はおそらく美馬。展開次第ではこの日5回を投げた則本、さらに第6戦先発の田中だって行く。先発投手の連投、クローザーの複数イニングなど全ての可能性がある。長いシーズンを戦い抜いた2チームが、最後の最後に東北(仙台)に戻る。一番いい舞台が用意されたのは確かだ。

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2013年11月1日のニュース