「年齢に勝てたことに満足感」37歳室伏が銅メダル

[ 2012年8月7日 06:00 ]

オリンピックスタジアムのまばゆい光を浴びて日の丸を広げる室伏

ロンドン五輪陸上

 5日の男子ハンマー投げ決勝で、室伏広治(37=ミズノ)が今季自己最高の78メートル71を投げ銅メダルを獲得した。昨年の世界選手権に続く優勝はならなかったが、金メダルに輝いた04年アテネ五輪以来2大会ぶりの表彰台。37歳という年齢の壁を乗り越えてつかんだメダルに充実感を漂わせた。

 最終6投目が80メートルラインの前で失速すると、室伏は少し悔しそうに右手を挙げた。最後は「いちかばちかで金を狙った」が、記録は伸ばせず銅メダル。それでも「メダルの色はともかく、年齢に勝てたことに満足感がある」と話すと表情は和らいだ。集大成として臨んだ4度目の五輪だけに万感の思いだった。

 1投目にアクシデントがあった。投てきが制限時間を超えたと判断されてファウル。直前に女子100メートルの表彰式が行われており、いつ競技が再開したのか分からなかった。「1投目にベスト8を狙って、次はメダルを狙う作戦だった」。37歳の年齢もあり、勝負が長引けば記録は落ちる一方。スタート勝負のプランは崩れた。

 ただ「すぐに切り替えたことがメダルにつながった」と、3投目で今季自己最高の78メートル71を出して表彰台は確保した。何より、年齢に逆らって成績を上げる究極の目標を成し遂げたことに充実感があった。

 20代の頃は1日200本近くも投げ込んだが、現在の練習量は約5分の1。行き詰まったある日、海で投網を打つ漁師に目を奪われた。脇の下に網を引き込み、十分なためをつくり、踏み込んだ地面の反発を逃さない。「これはハンマー投げの理想的な形だ」。その日から投網を投げる日が増えた。さらに武術や舞踊の写真を見て、指先まで意識を通わせる動きに気づかされた。日本独特の美しい所作の中にヒントがある。「筋力を鍛えることは限界があるが、感覚を鍛えることは無限」。それ以来、華道や茶道にも興味の幅を広げた。

 04年アテネ五輪は優勝者のドーピング違反による繰り上がりの金。「前回はいろんな問題があって、メダルは直接もらえなかった。8年越しにもらえてよかった」と生身の体で勝負したことも誇りに感じている。

 昨年は東日本大震災の被災地、宮城県石巻市の門脇中で一日体育教師をしてメダルを約束していただけに、競技終了後は子供たちが寄せ書きした日の丸を背にトラックを一周した。会見では「このメダルを東北地方の方々にささげたい」と世界に呼び掛けた。来年のモスクワ世界選手権への出場は宣言しているが、集大成の五輪は鉄人にとって忘れられない大会となった。

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2012年8月7日のニュース