富士高でイチローさんが伝えたかったもの「僕の想像以上にこんな気持ちになってくれていたら、泣くわ」

[ 2023年1月9日 01:25 ]

富士高の野球部員に話をするイチローさん
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 マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターのイチローさん(49)が、8日放送のTBSスポーツ番組「S☆1」に2夜連続で出演した。番組は昨年12月初旬に静岡・富士高をサプライズ訪問し、直接指導したイチローさんに密着。県内トップの進学校の野球部員に、どんな思いを持って接し、どんな感情が湧いたのかに迫った。

 2日間にわたった直接指導。初日の練習でイチローさんはある違和感は感じていた。「元気ないよね、なんだろう。元気がない。元気出していこうも元気がない」。

 そんな空気を打破するかのように、示したのはポジティブな姿勢と気持ちだった。

 「持ってるよ。俺は持ってますから。それは認めます。なんか降ってきそうな感じするのよ。本当にあるからね。でも、いつも下を向いて暗い人は、そういうのこないですよ」

 部員たちに交じって汗を流す中で、「野球」が共通語になっていないようにも感じていた。

 バント練習でアウトになる部員がいた。セーフにする方法はあったのか?という問いに、イチローさんは「今のでセーフになるタイミングは、バッターが空振りした時に(帰塁して)一塁でアウトになる距離でしかセーフになれないから。それは僕の野球じゃない」と答えた。

 「しっかりやっていれば守備側はアウトにできるし。攻撃側もしようもないミスはないし。それが画として見た時に、きれいになる」

 二塁を狙い、無理にリードを大きく取れば、けん制死などのリスクが高まる。リスクを背負い過ぎてミスするのは、美しくない。当たり前のプレーを当たり前にする中で、挑むところは挑む。そんな「きれいな野球」を言葉と気持ちで伝えた。

 自ら内野ノックのノッカー役を買って出たイチローさん。緊張気味の選手たちに「声出るね!」「それそれ」「頑張れ、声出して」と元気いっぱいに励まし続け、打球を飛ばし続けた。いつしか、部員全員が声を出して、一つになっていた。

 「今まで出し切れていなかったものがどんどん出せるようになって、自分の中でも一段階レベルアップできたと思う」

 「イチローさんのノック一球ごとに、これからの自信につながっていく感じがしました」

 部員たちの感謝する言葉が、イチローさんの胸に響いた。「うれしいね、これ聞いたらやっぱこの後の彼ら気になっちゃうもんね。いやいや、完全に届いているでしょ」。学業にも重きを置く進学校の球児たちは、その後は地域社会のリーダーを担っていくことが期待されている。

 「あのままじゃとてもリーダーになれないって思ってたけど、これ見たらその可能性あるなって。声も出るようになっているしさ」とイチローさん。そんな部員たちに伝えたかった思いとは。「野球がうまく、強くなってほしいんですけど、そこよりも生きていく上で、これから後輩を引っ張っていく上で必要なものというか。野球選手というよりも、より人間として携えてほしいものとか。そっちの方が生まれるとしたら大きいものだろうなと思っていた。僕の想像以上にこんな気持ちになってくれていたら、泣くわ」。2日間の練習を通じて、野球にとどまらない置き土産を、富士山の麓の名門校に残した。

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2023年1月8日のニュース