中日にトレード移籍する涌井は「50歳まで現役」を目指す“古き良き時代”の熱い男

[ 2022年11月15日 17:07 ]

中日・阿部寿樹内野手(右)と楽天・涌井秀章投手
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 楽天から交換トレードで中日に移籍することが決まった涌井秀章投手(36)は、ピッチャーらしいピッチャーだ。「古き良き時代の」という枕詞を付け加えると、よりしっくりくるかもしれない。

 マウンドでは表情一つ変えず、黙々と打者に向かって腕を振る。球数なんて関係ない。むしろ100球を超えてからエンジンの出力がピークに達することもあるほど「尻上がり」に調子を上げるタイプ。常に「先発完投」を目指してマウンドに上がる。投手の分業制が確立された令和の時代にあって、一昔前の先発投手が追い求めた「美徳」を今も大切にしている。

 とにかくよく走る。ロッテ、楽天で担当記者として取材させてもらったが、グラウンドに目を向ければ、必ずといっていいほど涌井が外野のフェンス際を走っていた。それが涌井がいるチームのいつもの光景だった。誰が名付けたのかは知らないが、プロ野球界で涌井が「スタミナおばけ」と呼ばれるゆえんでもある。
 忘れられない試合がある。ロッテ時代の15年。日本ハムと1勝1敗で迎えたCSファーストS第3戦。シーズン最終戦から中5日。143球(6回1/3)の熱投で白星を挙げ、チームをファイナルSへと導いた。3回無死満塁のピンチでレアードから空振り三振を奪うと、右手でグラブを叩いて雄叫びを上げた。

 試合が終わると、いつものクールな男に戻っていた。記者から雄叫びのことを聞かれると、最初は「そんなことしましたっけ?」ととぼけたが「めったにあんなことはしないんですけどね。それだけ気持ちが入ってたってことじゃないですか。伊東監督が自分を必要としてFAで獲ってくれたことがうれしかった。恩返しがしたいし、男にしたい」と続けた。涌井が試合中にあそこまで感情を露わにする姿を見たのは、後にも先にもあの時だけだ。

 「無事是名馬」を地で行く選手が、今年5月に選手生命を左右されかねないアクシデントに見舞われた。5月18日のロッテ戦(ZOZOマリン)で、打球が当たった右手中指を骨折。ボルトで固定する手術を受け、野球人生で初めて長期離脱を強いられた。回復が思わしくなければ現役続行の危ぶまれる可能性があるほどの大けがだったことを複数の関係者から聞いていただけに、復帰戦となった9月8日のソフトバンク戦(ペイペイドーム)で見事に白星を手にした姿には感動した。

 テレビの画面越しでは伝わりづらいが、ポーカーフェイスとは裏腹に熱いハートの持ち主。マウンドを降りれば人なつっこい性格で、涌井の周りにはいつも人が集まってくる。「50歳まで現役」と「200勝」という最終目標まで残り46勝と13年。まだまだ先は長いが、新天地でも若手の良き手本となりながら、ベテランらしい渋い輝きを放ってくれることを願っている。 (重光 晋太郎)

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2022年11月15日のニュース