【上水研一朗の目】リネールに善戦も、サプライズがほしかった斉藤 柔道世界選手権

[ 2023年5月14日 14:54 ]

柔道世界選手権第7日

男子100キロ超級準々決勝 フランスのテディ・リネール(奥)と対戦する斉藤立
Photo By 共同

 斉藤とリネールの一戦は、置かれた立場の違いが勝敗を左右したように思う。挑戦者の斉藤が最初から全力投球だったのに対し、リネールは7、8割の力で前半戦をさばいていたため、疲れていたように見えても、延長戦では余力があった。できれば本戦の大内刈りから内股で崩した場面で決めきりたかったが、相手は非常に用心深い選手なので、王道の技で投げきるのは至難。例えば全く想定していないであろう逆の一本背負いや低い肩車など、サプライズの技が一つ、二つないとポイントを奪うのは難しいと思われる。

 組み手の面でリネールは自分の形になった接近戦は得意だが、その場面以外はむしろ嫌がる傾向にある。3回戦のオドフー(モンゴル)戦ではその接近戦を仕掛けられ、明らかに嫌がっていた。今後の戦い方の参考になるだろう。斉藤は敗れたとはいえ、がっちり持ち合って投げられたわけでもなく、3回戦では東京五輪銀メダルの強豪トゥシシビリ(ジョージア)の隙を突いて抑え込んで勝ったことは収穫で、高く評価していい。

 素根は技術の幅が増え、担ぎ技にも進化が見られた。2回戦や準決勝で決まり技となった一本背負いは、肩車のように入るので相手は予測しづらい。昨年3月に左膝を手術し、少しずつだが思い切って技に入られるようになったことも大きい。決勝も自分より20センチも大きなトロフアが、素根に引き手を取られると技を食らう恐怖心から持ちに行けず、優位に試合を進めていた。勝負勘や生命線である受けの安定感は東京五輪当時のレベルに戻ってきた。一方で力強さの部分には伸びしろがある。その点は男子の重い階級との練習で十分克服できるので、優勝を自信にさらに成長できるだろう。

 毎年開催される世界選手権は五輪前年が最もレベルが高く、特に男子は昨年から一、二段階レベルが上がった印象だ。日本男子は金メダル1個にとどまったが、海外勢がギアを上げてきたことを肌で感じられたのはプラスだ。ポジティブにとらえて、残り1年の準備に生かしてもらいたい。(東海大体育学部武道学科教授、男子柔道部監督)

続きを表示

この記事のフォト

「羽生結弦」特集記事

「テニス」特集記事

2023年5月14日のニュース