引退意向の琴奨菊 祖父の影響で相撲道へ 優勝時には“琴菊論争”にケリ「琴バウアーでお願いします」

[ 2020年11月14日 13:55 ]

琴奨菊
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 現役引退の意向を固めたことが11月場所7日目の14日、日本相撲協会関係者の話で分かった元大関で西十両3枚目の琴奨菊(36)=本名菊次一弘、福岡県出身、佐渡ケ嶽部屋=。力強い取り口と優しい人柄で知られたその素顔をかつて掲載した記事から振り返った。

 ★祖父の影響で歩み出した相撲道 琴奨菊の相撲人生は亡き祖父・菊次一男さん(享年76)を抜きには語れない。福岡県柳川市で建設業を営む父母の3人兄弟の末っ子として生まれた一弘少年は、子供の頃から体が大きかった。ただ、女の子が欲しかった母が優しく育てたせいか、小学2年で柔道を始めたものの、女子相手に全力を出せない気弱な性格。それを見かねた祖父が、相手が男だけで手加減なしに取り組める相撲への転身を勧めた。小学4年でわんぱく相撲の地区予選に出場し優勝。結果が出たことで週3回、地元で名の知れた久留米市の井上道場に祖父の運転する車で通い始めた。

 ★運命的な出会い 1992年、関脇・貴花田が冬巡業で隣町の大和町(現柳川市)を訪れ民泊した。食事に同席させてもらった当時小学3年の一弘少年は、貴花田の膝の上に乗りにいって記念撮影した。それ以来、祖父と一緒に相撲のテレビ中継を欠かさず見るようになり、次第に力士になりたいと思うようになった。

 ★小学生の頃からプロ入りを公言 小学校卒業後、祖父母とともに熊本市へ引っ越しして同市内の強豪中学に進学するつもりだった。しかし知人の紹介で高知・明徳義塾を見学。充実した施設、練習環境を目の当たりにして心変わりした。明徳義塾の道場には土俵が2つあり、中学高校合同で練習が行われる。一弘は高知への留学を決断した。後に横綱・朝青龍となるモンゴル人留学生ドルゴルスレン・ダグワドルジとは3学年違い。当時監督を務めていた浜村敏之氏は一弘の素質を見抜いて、2学年上のバダルチ・ダシニャム(後の元関脇・朝赤龍)の練習相手に選んだ。

 ★高校では生徒会長 笑顔を絶やさず優しい性格。2年になると、教員の合議で決まる生徒会長に推された。反対したのは、一弘の練習時間が減ることを懸念した浜村氏だけだった。浜村氏は、練習時間が確保できるよう周囲の協力を取り付けた上で生徒会長就任を渋々受け入れた。

 ★先代師匠の熱血指導 「押せ!押せ!」「とにかく出ろ!」「何やってんだ、この野郎!」の野太い怒声。07年8月に66歳で他界した先代・佐渡ケ嶽親方(元横綱・琴桜)がいなかったら、大関・琴奨菊は誕生しなかった。熱血指導に定評があった先代は初代“がぶり寄り”の大関・琴風、関脇・琴錦、大関・琴欧洲、琴光喜ら22人もの関取を育てた。琴奨菊も入門当時は全く芽が出ず、師匠から容赦なく「弱い」と突き放された。先代の印象は「厳しいことしか言われた記憶がない」ほど、弟子には厳しい存在だった。アマチュア時代は四つ相撲を得意としていたが、師匠の教えで突き押しに転向。ひたすら押しまくる稽古で、がぶり寄りを習得した。

 ★「琴バウアーでお願いします」 2016年初場所で日本出身力士として10年ぶりに優勝した翌2月、日本記者クラブで“琴菊論争”に終止符を打った。取組前に行うルーティンの呼び名が「琴バウアー」「菊バウアー」とファンの間で混在していたが、自ら指名した記者に答えを委ねて「琴バウアー」に決定。会見の最後。おなじみのポーズで写真撮影に応じた後に突然、「せっかくですから」と海外通信社の女性記者にどっちがいいのか答えを求めると「琴バウアー!」と返答が返ってきた。これに対し、大関は「先代師匠(元横綱・琴桜)が“琴という字は今に王になるという意味だ”とよく言っていた。琴バウアーでいきましょう!」

 ★自転車トレ 2016年初場所で初優勝後、千葉市の千葉競輪場で自転車トレーニングを実施した。師事する塩田宗広トレーナーが競輪選手も指導している縁で実現した2度目の異種トレーニング。初場所前の前回は“ママチャリ”で500メートルのトラックを1周しただけだった。今回は体重超過でレース用の自転車こそ使用できないが、タイヤの太いマウンテンバイクでトラック6周と本格化。狙いは「15日間戦えるスタミナ、耐久性をつけるため」。

 ★ラグビー日本代表・姫野和樹をスカウト 来シーズン、世界最高峰のリーグ、スーパーラグビーに挑戦する姫野を数年前、偶然入った飲食店で見掛けて角界入りを勧めた。「筋肉は服の上からでも分かる。(首や肩周辺の)僧帽(そうぼう)筋が発達していた」。稽古見学に誘ったそうだが「ラグビーやってますんで」と笑いながら断られたという。昨年のW杯8強進出に貢献した活躍を目の当たりにし「スカウト成功しなくて良かった」と苦笑い。

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