追悼連載~「コービー激動の41年」その24 過酷だった2季目の現実
【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】1997年の10月にキャンプが始まると、レイカーズのジェリー・ウエスト副社長兼GMは「なぜそうなってしまったんだ?」とコービー・ブライアントのぎこちないシューティング・タッチに首をかしげた。それはレイカーズが求めるものではなかった。身長は6フィート6インチ(198センチ)から6フィート7インチ(201センチ)に伸び、体重も10ポンド(約4・5キロ)増えて210ポンド(95キロ)になったが、肝心の技術がどこかに消え失せていた。結局、元のスタイルを取り戻すのに1カ月を要し、2年目のシーズンをぎくしゃくした格好で迎えることになる。
それでも各メディアの予想で、レイカーズは優勝候補に挙げられた。本拠地フォーラムでの開幕戦では宿敵ジャズを104―87で撃破。コービーはベンチから出場して23得点を叩きだした。開幕8連勝で迎えた11月18日。今度は因縁の地、ソルトレイクシティーに乗り込んだ。試合は接戦。だがレイカーズに勝利の女神がほほえむ。残り4秒で95―92とリード。ジャズはブライオン・ラッセルが同点の3点シュートを狙った。それをコービーがブロック。ルーズボールをキープすると一気に速攻を仕掛け、ブザーが鳴った瞬間にダンクを決めた。渾身の力をふりしぼっての19得点目。デル・ハリス監督は「もはや子どもではなくなった。彼は真のNBAプレーヤーだ」と目を細めた。
結局このシーズンは開幕11連勝を飾り、シャキール・オニールが故障で22試合欠場しながらも61勝11敗。スーパーソニックスと並んで勝率は西地区パシフィックの1位だった。コービーの出場時間は15・5分から26・0分、得点は7・6から15・4に増えた。そして満を持して迎えたプレーオフ。シーズン終盤から好調だったレイカーズは1回戦でトレイルブレイザーズを3勝1敗、地区準決勝でスーパーソニックスを4勝1敗で下して地区決勝に駒を進めた。相手はまたしてもジャズ。ついにリベンジを果たすチャンスが巡ってきた。
ところが現実はきびしい。これだけコービーが努力したにもかかわらず屈辱感は倍増する。36歳のジョン・ストックトン、35歳のジェフ・ホーナセクとカール・マローン。ジャズの主力には「高齢化問題」があったが、大事な試合で見せるベテランたちの意地と執念は、レイカーズの若さを封じ込めた。
このカード、レギュラーシーズンではレイカーズが3勝1敗と優勢だったものの、いざプレーオフで顔を合わせるとジャズが4戦全勝でスイープ。「明らかに彼らの年齢は高かったが、バスケについては多くのことを知っていた。魔法にかけられたみたいだった」とコービーは予想もしなかった完敗にがっくり。夏に鍛えた肉体は、経験という名のジャズの武器の前にしてまったく歯がたたなかった。シャックがいてコービーがいてベンチの層も厚かったレイカーズ。でも優勝はできない。では何が足りないのか。答えはファンも薄々感じ取っていた。
1999年2月24日。このシーズンは労使紛争でレギュラーシーズンが82試合から50試合に短縮されていたが、開幕からまもないこの日に大きなニュースが流れた。それがハリス監督の解任。そのときレイカーズは6勝6敗だった。61歳になっていた指揮官はレイカーズでは5シーズンにわたって指揮を執り、通算224勝116敗。勝率・659は見事な成績だと言える。しかし彼はこの戦力を持ってしてもファイナルを制覇できなかった。
紛争開けのシーズンではロードで惨敗が続き、これで評価が急激に下がった。ウエストはカート・ランビスとラリー・ドリューの両アシスタント・コーチ(AC)のどちらかを監督に昇格させることにしたが、結論を出すには時間がかかったため、同じくACだったビル・バーカを1試合限定の暫定監督に起用。結局、そのあとにランビスが後任の指揮官となった。
だがファンと同じようにウエストもチームに足りないものを理解していた。必要なのは優秀な指揮官。そしてあの有名なスーパースターを操って優勝していた監督が“人材バンク”で眠っていた。オニール+ブライアント+最後のピース。そう、ついにあの男が西海岸にやってくる。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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