病魔との向き合い方 スポーツが持つもうひとつの力 あなたならどうする?

[ 2019年8月22日 12:00 ]

乳がんとの闘病を公表したシラキュース大のマンガカヒーア(AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】全米大学女子バスケットボールのシラキュース大(ニューヨーク州)に、オーストラリアから留学してきたティアナ・マンガカヒーア(24)は有能なポイントガードだ。昨季は平均16・6得点、8・4アシストをマーク。しかし4年生で迎えた今季はプレーをしない。理由は2カ月前に「浸潤性乳管がん」と診断されたからだ。ステージ2の乳がんであることを医師に説明されたときには「なぜ自分が…」とその運命を呪い、同大学のクエンティン・ヒルスマン監督(48)と2人で号泣したのだという。

 AP通信によれば彼女は現在、8段階ある化学療法の4段階目を終えたところ。「いい日を迎えるには悪い日を乗り越えていく必要があることはわかっています。今はその途中」と前向きに闘病生活を送っている。目指すのは、あと1年プレーできる資格が残った来季での復帰。まだ疲労感に襲われ、歩くことさえままならない日があるが、自分の病気を公表することで多くの人から支援を受けるようになった。「1人では戦えなくてもみんなの力があれば…」。おそらくそれこそがスポーツが持つもうひとつの力なのかもしれない。

 2017年に18勝を挙げている大リーグ・インディアンズのカルロス・カラスコ投手(32)は19日、マイナーの2Aアクロンの一員として登板した。5回途中から3番手の投手としてマウンドに立ち、1イニングを無失点。ベンチに戻るとほとんどが年下のチームメートが駆け寄って握手とハイタッチを求めてきた。

 ベネズエラ出身の同投手は6月5日に故障者リストに登録されたが、7月6日に慢性骨髄性白血病との闘病を公表。5人の子どもの父親でもあるカラスコは治療のために競技生活を一時中断した。

 しかし「なんとか今季中に(メジャーに)復帰したい」とカラスコはわずか2カ月でマウンドに戻ってきた。その姿は、これからメジャーを目指す若手選手にとっては強烈な刺激だったのだろう。病魔と闘うベテランが無意識のうちに漂わせた不屈の闘志は、ピッチングの技術以上に周囲をうならせる結果となった。

 男子バスケットボールのギリシャ・リーグで名門チームとして有名なオリンピアコスを率いているデビッド・ブラット監督(60)はイスラエル系の米国人。現役時代はアイビーリーグのプリンストン大でポイントガードを務めていた。2014年にはレブロン・ジェームズ(現レイカーズ)がいたNBAキャバリアーズの監督に就任。2016年1月22日に解任されるまで世界のトップリーグでも指揮を執っていた。

 そのバスケ界の名コーチは今、多発性硬化症(MS)と診断され、歩行がおぼつかなくなった。神経系統が弱っていく難病。歩いているとバランスを崩して倒れてしまうこともあると言う。それでも「機敏に動けなくなったことは私の職務には何の影響もない。選手やスタッフには依然のままでいてもらいたい」と“病欠”はしない強い意志を示した。

 医学的に彼らの行為、さらに将来への見通しが正しいのかどうかはわからない。ただし病気を公表したことで、そこには国境や国籍を超えたグローバルな支援が沸き起こっている。もしスポーツが人間社会にとって意味のあるものならば、勝敗以上に大切な何かがここにあるように思う。

 マンガカヒーアとヒルスマンがお互いに号泣したのは30秒間だけ。指揮官はそのあと「さあ、次のプランを考えよう」とチームの大黒柱の肩をたたき、「何ができない」ではなく「何ができるのか」に考え方を変えた。

 「闘病生活が終わる日を思い描いています。その日が私にとって“勝利の日”です」

 マンガカヒーアが受け入れたもうひとつの戦い。支援の輪は、カラスコやブラット監督同様、時間の経過とともに急速に広がっている。

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは4時間16分。今年の北九州マラソンは4時間47分で完走。

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