お手本になるのは戦術だけではない 初の銅メダル「サトハシ」の魅力とは?

[ 2019年4月28日 15:00 ]

卓球・世界選手権個人戦第7日 ( 2019年4月27日    ハンガリー・ブダベスト )

<世界卓球>佐藤(左)と橋本(撮影・吉田 剛)
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 女子ダブルス銅メダルの佐藤瞳(21)・橋本帆乃香(20=ともにミキハウス)の礼儀正しさは、丁寧な選手ばかりの卓球界の中でも目立つ。今大会初戦でベラルーシ組に大苦戦。素直に喜べない試合後でも、折り目正しい姿勢は変わらなかった。

 日本代表のスタッフを見かけて、「ちょっとすみません」と頭を下げて、報道陣の前を離れた。関係者に勝利の報告とお礼を伝える。戻ってきて「すみません」と言って、取材の続きに応じた。

 別のスタッフを見かける。同じようにペコリとして離れ、戻ってきてペコリとした。

 いえ、最後まで質問に答えてくれて恐縮なのはこちらです。

 会話の止め方は難しいが、2人の振る舞いはごく自然。あいさつやマナーが体に染みついているのだろう。

 答えの一つは、ベンチにあった。準々決勝まで大嶋雅盛監督の妻・由美コーチが座った。椅子に浅く腰をかけ、ピンと背筋を伸ばしたまま、戦況を見守った。この師ありて、丁寧な弟子あり。

 伊藤・早田組との準決勝は、互いにベンチは無人だった。同国対決の場合は、双方ともにコーチが入らない不文律がある。

 序盤、橋本の虚を突く強打がよく決まった。カット型の本領発揮で、佐藤とよく守り、焦れた伊藤と早田のミスを誘った。しかし、過去全敗の難敵。これまでの対戦で一番多い2ゲームを取って2―1としたところで、流れが変わった。

 「相手がキッチリ速さを変えてきた。対応できずに自分のミスが出た」と橋本。打ってくるテンポが速くなったと感じた4ゲーム目から失速して2―4で敗れた。

 決勝進出を逃したとはいえ、ミキハウスコンビの2人にとっての初めての世界選手権ダブルスで、銅メダルを獲得した。故郷の名古屋市を出て、中学から大嶋夫妻に指導を受ける橋本は「先生と奥さんに育ててもらってここまで来られた」と感謝の思いを口にした。

 教師の道を歩んできた大嶋監督は、技術指導もさることながら、人間教育に重きを置いている。「卓球ができるのは何歳までですか?その後の人生はどうしますか?」が口癖。あいさつ、掃除にはことのほかうるさい。誉めて乗せることよりも、厳しさで愛情表現をして教え子の力を伸ばしてきた。高校卒業後に加わった佐藤に対してもそれは同じだ。

 だから、だろう。橋本が言う。

 「準々決勝に勝ってメダルが決まった後、浮かれた気持ちで帰ってきたら怒られると思って、表情を引き締めたんです。そしたら監督が、顔が引きつっているぞって。そして、ようやったなって誉めてくれて。本当にうれしかったです。メダルを取れて良かった」

 2人は今大会に活躍することで、減少し続けるカット型選手の励みになりたいと語っていた。いや、子どもたちのお手本になるのは、戦術だけでない。プロとして、いち社会人として、目指されるべき姿勢で戦っている。

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