全米大学男子バスケットボールで起こった珍事 3人で戦って粘ったアラバマ大

[ 2017年11月29日 10:00 ]

最初に乱闘を引き起こしたアラバマ大のセクストン(右=AP)
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 【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】1974年(昭和49年)の5月。高校バスケットボールの北九州市1年生大会(福岡)で、メンバーが7人しかいなのに5人が5反則で退場してしまったチームがいた。バスケットボールの場合、試合開始時には最低5人いなくてはいけないが、以後2人まで試合は続行できる。なぜ1人だとダメかというと、スローインとなった場合、ボールを投げる相手がいなくなるからである。2人となったそのチームは大敗。当たり前である。2対5では勝負にはならない。

 さて日本の八村塁(ゴンザガ大)や渡辺雄太(ジョージ・ワシントン大)らがいる全米大学男子バスケットボール界で、後半の10分41秒間を3人だけで戦うという珍事が起こった。

 計9人が出場不能となったのはミネソタ大と対戦したアラバマ大。ベンチ入りした12人中、7人が乱闘規定による退場処分、1人が5反則、1人が足首の負傷でプレー続行不能となり、後半9分19秒からは3人だけでになった。

 騒動の発端は後半の5分54秒。まずミネソタ大のネート・メイソン(4年)とアラバマ大のコリン・セクストン(1年)がコート上でもみ合いとなったことで幕を開けた。両選手にはテクニカル・ファウルがコールされたが、メイソンはさらに文句を言い続け、その数秒後に2度目のテクニカルをコールされて退場処分となった。

 両チームはこれをきっかけに一触即発の状態となり、後半の6分21秒にはミネソタ大のデュプリー・マクブレイヤー(3年)とアラバマ大のデイゾン・イングラム(2年)が乱闘。このとき、ベンチにいたアラバマ大の控え選手7人がコート上に入ったため、乱闘規定によって対象者全員が退場となった。

 この時点でアラバマ大に残ったのはバスケットボールの1チーム最少人数の5人。しかし8分23秒、2度目の乱闘の当事者となったイングラムが5反則目を犯して退場となり、その56秒後にはジョン・ペティー(1年)が足首を痛めてプレー続行不能となった。

 ところがあの北九州の高校とアラバマ大はちょっと違っていた。この不利な状況下でなんとミネソタ大を猛追。いったん14点差まで点差を広げられながら残り1分39秒には3点差まで詰め寄った。3対5となってからのスコアは26―16。結局84―89(前半29―41)で敗れたものの意地は見せた。映像で見る限り5人のミネソタ大が手を抜いたというような場面はないし、バスケットボールというのは3人になっても途方に暮れることはないということを彼らが教えてくれたような気がした。

 もちろん深く反省しなくてはいけない試合だ。乱闘の際にはベンチにいる選手がついコートの中に入ってしまいがちだが、制止できるのはコートにいる選手だけ。それを各選手に徹底することができなかったコーチ陣の責任は重い。

 さて43年前、日本で同じような失態?を演じたのは小倉高校。真っ先に5反則でいなくなったのはキャプテン番号の背番号4を背負いながら何もできなかったこの私で、連鎖反応的に次から次へと退場者が出て監督もあきれかえっていた。(そうでしょうね)。最後に残った2人のうち1人は、人数が足りなかったのでバレーボール部から連れてきた助っ人くん。アラバマ大のような猛追撃など起こりうる可能性など皆無に等しかった。

 それでも以後、私たちはそのときに敗れた若松高校には負けなかった。3年時、全国区の福岡大大濠に敗れるまではインターハイさえも視野に入った。あの時の“悪夢”は決して無駄ではなかったと自負しているし、当時の仲間が集まるといまだに「2対5」の話で盛り上がる。

 11月25日。ニューヨーク州ブルックリンでの試合で最後までコートにいたアラバマ大の選手はセクストンとゲイリン・スミス(1年)、ライリー・ノリス(4年)の3人。チーム全体としては褒められるものではなかっただろうが、たぶんこの3人にとっては“記憶に残る試合”になったことだろう。

 「あきらめたらそこで試合終了ですよ」。漫画スラムダンクの安西先生の言葉をまだ知らなかった私たちは投げやりになったが、アラバマ大の3人はその言葉を忠実に受け入れたかのように粘った。「オレたちってトリプルスコアくらいで負けたよなあ」。おっと、今年の忘年会はまたこの話題で盛り上がるのだろうか…。(専門委員)

 ◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市小倉北区出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に6年連続で出場。

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2017年11月29日のニュース