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ミキッチ氏 日本VSクロアチアのカギを握るのは中盤選手「将棋のような頭脳戦になる」

[ 2022年12月4日 07:00 ]

FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会

広島、湘南でプレーした元クロアチアU―21代表MFのミハエル・ミキッチ氏
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 広島、湘南でプレーした元クロアチアU―21代表MFのミハエル・ミキッチ氏(42)が本紙の取材に応じ、母国の強さの秘密について語った。俊足を生かしJリーグでも活躍したドリブラーは、チームがベテランと若手の融合により、準優勝した前回より進化していると分析。強みにMFルカ・モドリッチ(37)を含む中盤3人を挙げた。また、広島時代に指導を受けた森保一監督(54)をはじめ、日本代表の印象も語った。

 ――ダリッチ監督は17年から率いて18年ロシアW杯で準優勝。当時の戦いを現代表も踏襲しているか?

 ミキッチ氏「今大会のクロアチアも前回同様それ以上のメンタルの強さを持っている。全ての若手がヨーロッパのビッグチームでプレーしている。そして、日本同様若手が順調に成長していることによって世代交代もスムーズにいっていると思う。あとは勝利への貪欲さディテールにこだわった対戦チームに対する的確な分析、そういったものが我々の勝利のメンタリティーにつながっていると思う」

 ――現チームは若手とベテランが融合している。

 「昨年の欧州選手権後は多くのポテンシャルとクオリティーのある選手達にチャンスを与えた。若手の多くの選手がビッグクラブでプレーしており、なおかつ代表でプレーすることのモチベーションは非常に高い。特にDFヨシュコ・グバルディオル(ライプチヒ)、DFボルナ・ソサ(シュツットガルト)、DFヨシプ・シュタロ(ディナモ・ザグレブ)、MFロブロ・マイエル(レンヌ)らは代表に名を連ねるようになった。そしてクロアチアリーグを制覇したディナモ・ザグレブからはFWミスラフ・オルシッチとFWブルノ・ペトコビッチも国内組として選出された。

 私が思うには非常にスムーズに世代交代が進んでいると思っている。それはなぜかと言うと、常に湧き出るように次々とタレントをもった若手が出てきているし、MFモドリッチ(Rマドリード)、FWペリシッチ(トットナム)、MFコバチッチ(チェルシー)、MFブロゾビッチ(インテル・ミラノ)、DFロブレン(ゼニト)はいまだ健在だ。ただ単に若手を多く入れて、チームを若返らせるという手法ではなく、実績、経験のあるベテランと野心に満ちあふれた才能ある若手のミックスがうまくいっていると思う。だからこそ、ハイクオリティーを維持できている」

 ――現チームの強みは。

 「私が思うにはモドリッチ、コバチッチ、ブロゾビッチは今大会ベストな中盤3枚だとも言える。まずそれぞれテクニックが非常にあり、戦術眼に優れ、試合を支配できる能力を持っているし、走力も十分にある。だからこそ、相手にとっては非常に嫌な3枚となっているだろう。ボールを簡単には失わないし、相手のプレッシャーを受けてもパニックに陥らない、冷静さを兼ね備えている。そしてそれぞれ、態勢のいい選手に的確にボールを預けることができる。

 ブロゾビッチは試合の重要なファクターであるセカンドボールをことごとく拾い、そして、ボールを奪えば、狭い局面を自分で持ち出して、前にボールを供給することができる。一見、彼のプレーを見ていると簡単に見えるが、非常に難しいプレーをいとも簡単そうにやってのけるのが彼の凄さだ。

 モドリッチについては私が多くを話す必要もないだろう。前大会W杯MVP、FIFAのバロンドールも獲得した選手だ。彼の一番の凄さはそのメンタリティーにある。すべてを勝ち取りながらも、年齢にかかわらず、まだまだ貪欲にクオリティーの高いプレーをし続けている。

 マテオ・コバチッチは簡単に言うと、マエストロだ。サッカーのすべてを知っているし、常に冷静さを保ちながら、難しいプレーをいとも簡単にやってのけるエレガントな選手だ。彼のプレーを見ているだけで楽しめる。そして、彼のドリブル、パス、相手を見ながらとる立ち位置、2列目からの飛び出し、全てがハイレベルだ。だからこそ、そういった絶対的力を持ったベテランは大きな支えであるし、見本でもある。こういった、現状を考えると前回大会よりも純粋に力は上なのかもしれない」

 ――日本で有名なのはモドリッチやプリシッチらだが、若手の中で期待しているのは?

 「もちろんモドリッチ、ペリシッチはチームで一番経験豊富な選手達だ。ただ、私は多くの若手に期待している。特にロブロ・マイエルは完成された選手だ。完成された選手という意味は彼が出た試合は必ずアシストやゴールを決めるまたは決定的なチャンスに絡む結果を残している。非常に将来性が楽しみであり、モドリッチの後継者になると私はみている。さっきも言ったように、彼は必ずチャンスに絡んでくる。何もせずに終わってしまう試合の方が圧倒的に少ない。

 そして、ヨシュコ・グバルディオルは私にとっては現時点で世界最高のストッパーの一人と言える。20歳という年齢に対して、プレーは成熟しているし、信じられないぐらいだ。彼の判断力、パスの選択はとびぬけている。相手チームから激しくプレッシャーをかけられようとパニックなることはない。だからこそ、我々の攻撃も彼から始まることも少なくない。そして、スペースがあれば、自ら20mボールを運ぶことができる選手でもある。そして、必要であれば、相手のDFラインの背後に飛び出ていく事もある。私が思うには世界を見渡しても、20歳でこれだけ成熟したプレーを見せる選手はいないと思っている。確実に彼の次回の移籍金は世界最大級のものになると思う」

 ――森保監督とは広島時代に師弟関係。広島時代の思い出は。

 「ぽいちさんは非常に優れた監督だ。広島でも若手とベテランの融合を実行した監督でもある。そして常に、うまくいかなかった時のプランB、Cを持っている監督でもある。それはドイツ戦、スペイン戦を見ても明らかだ。やはり監督の手腕というのはうまくいかないときに流れを変えられる、ゴールを決められそうな流れの時にどういった采配を振るうかで真価が問われると思う。

 ドイツ、スペイン戦ともビハインドで前半を終え、選手交代、そしてシステム変更を施し、チームを生き返らせたことでも彼の監督としての能力を証明しているだろう。浅野拓磨をジョーカーとしてうまく生かしているのも広島時代を思い出させる。私がいたときの広島も拓磨はジョーカーとして、最高の仕事をしてくれた。だからこそ、ぽいちさんも絶大の信頼を置いているのだろう。

 試合を勝利で終えるためには、ベンチから入ってくる選手の活躍は必要不可欠だ。途中出場の選手たちが、試合の流れを変える、そしてチームにどれだけ勢いをもたらすことができるのか、それは勝負を制するうえで、絶対に欠かせないファクターである。そう言った意味では今回、日本戦を見てみると、拓磨や三笘も非常に素晴らしいパフォーマンスを見せている。特に三笘は世界で最も難しいと言っても過言ではない、プレミアリーグでも素晴らしい活躍をしている。

 おそらく、ぽいちさんはこう言ったのではないかな。君たちの力はこんなもんじゃないはずだ。もっともっと力を出さなきゃだめだ!そして、ひとりひとりに明確なタスクを伝えて回ったのではないかと思う。そして、ぽいちさんは私がいた広島時代よりも監督として経験を積み、フレキシブルさも増している。選手交代もそうだし、システム変更にしてもそうだ。冷静に試合での相手の動きを分析し、それを攻略するための采配を振るうことができていると思う。

 システム変更も効果的に行い、4―2―3―1から3―4―2―1、そしてリードしている局面では5バックのようにしてゴール前を固める。勝利をとるために全て理にかなった決断をできる非常に優秀な監督だと思う。長く、日本代表の監督をやってほしいし、日本サッカーを確実に前進させ、世代交代をスムーズにできる監督だと思っている」

 ――クロアチア戦での日本のキーマン、クロアチアのキーマンは。

 「これは非常に難しい質問だ。中盤を制した方がこの試合を制するともいえる。お互いの中盤に素晴らしい選手をそろえている。そして、大事なことはゲームをしっかりとコントロールする事、そしていかにチームのためにスプリント出来るかだ。まさに将棋のような頭脳戦にもなるだろう。日本の中盤、鎌田、田中、そして遠藤、三笘対モドリッチ、コバチッチ、プロゾビッチ全員がキープレーヤーと言えるだろう」

 ――日本―クロアチアはどんな展開になると予想するか。

 「より我慢強く、規律を守って戦い、めぐってきたチャンスを生かした方が勝負を制するだろう。ノックアウトステージでは、一つのミスが命取りとなるし、予想は非常に難しい。ただ、日本、クロアチアとも、運よくベスト16に進んだチームではなく、それぞれ自分たちの力で、勝ち取った力のある同士の戦いである。私にとっては非常に興味深い試合だ。さっきも言ったように我慢比べの戦い、そしてミスをしたチームが負ける。そうした緊迫したタフなゲームになることは間違いないだろう」

 ◇ミハエル・ミキッチ 1980年1月6日生まれ、クロアチア・ザグレブ出身の42歳。ドリブルが得意なサイドアタッカーで09年にディナモ・ザグレブ(クロアチア)から広島入団。17年まで在籍し、12年シーズンからの6年間を現日本代表の森保監督の下でプレーした。湘南退団後の19年に現役引退。現在は強豪マリボル(スロベニア)でコーチを務める。J1通算227試合8得点。1メートル77、68キロ。

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