落語を習う1 六十の手習い 選んだのは「たらちね」挑戦が始まった

[ 2024年2月17日 11:02 ]

筆者の“師匠”となった桂歌助さん                               
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 【笠原然朗の舌先三寸】落語を習い始めた。昨年8月、60歳で定年を迎え時間に余裕ができた。もともと好きな落語だ。「観る」「聞く」側から「演じる」側に回ってみたい、との思いがフツフツと沸いてきた。六十の手習いである。

 「入門」するに当たってまずは師匠選びだ。2018年に亡くなった桂歌丸さんの2番弟子、桂歌助さん(61)から幸いなことに思わぬ知遇を得て、親しくお付き合いをさせてもらっている。

 彼は素人向けの落語教室を主宰し、お弟子さん約80人を抱える。その末席に名前を加えてもらうおうというのだ。

 落語家にライセンスはない。ただ「プロ」を名乗るためにはまず、師匠を選んで弟子入りするというプロセスが必要となる。プロの落語家は、この弟子入りについて各々、「物語」を持っている。

 歌助さんは、横浜にある歌丸さんの家を3回訪れ、やっと奥様の口利きで歌丸さんに会った。歌丸さんは自らが出演する寄席などに出入りさせた挙げ句、弟子にするともしないとも言わず2カ月間放置…というより人柄や適正を見ていたのだろう。やっと弟子入りを許されたという経緯がある。

 そのあたりのことは歌助さんが書いた自伝「師匠歌丸」(イーストプレス)に詳しい。

 私はあくまでも素人。歌助さんが月1回、東京・湯島で行っている落語会「一笑会」の打ち上げの席で、ホッピーを飲みながら「落語を教えていただきたいのですが…」と直訴した。昨年11月のことだ。
 歌助さんは唐突な申し出にポカンとして、「えっ、笠原さんもやるの?」

 「はい是非、お弟子にしてください」

 酒の勢いを借りての弟子入り志願。劇的でも何でもない話だが、何となく“お友達”の延長から、アマチュア落語家への道が始まった。

 私が加えてもらったのは「渋谷教室」。今年10周年を迎え、生徒さんは10人ほど。マンションの一室を借りて、稽古は月2回。1回30分で2500円。休めばその分は払わなくてもよい、という極めて良心的なシステムも気に入った。歌助さんの他、歌丸さんの3番弟子、桂歌若さんも講師で、本格派のお二人から稽古をつけてもらえるという豪華版だ。

 まず最初は何の噺を習おうか?

 寄席通いもし、公演の取材もし、落語家さんのロングインタビューも担当した。落語の知識はそこそこあるつもりだし、何より愛が深い。耳も肥えている、と思う。だから私の場合、まっさらな紙を「あなた色に染めてください」ではない。紙は紙でも極彩色(真っ黒かも)に色が塗りたくられた紙だ。たちの悪い弟子である。

 寄席の幕が開いて、番組が始まる前に演じられるのが「開口一番」。これは前座が務める。

 東京の落語家には位があって、前座、二つ目を得て「真打ち」となる。二つ目になるまで楽屋での前座修行はおよそ4年。「開口一番」はその日、雑用係で楽屋入りした前座の役目だ。

 よく演じられる演目は「寿限無」「牛ほめ」「家ほめ」「子ほめ」「平林」「道灌」など。いずれも軽い噺で「前座噺」と言われる。だがその噺の中に落語を演るにあたっての基本が詰まっている。

 私が選んだのは「たらちね」。長屋暮らしの独り者、八五郎のため大家さんが世話をしてくれた女房には傷が。

 「さる京都のお屋敷で生い育ったので言葉は丁寧だが、難しいことを言う」。

 言葉が丁寧過ぎる新妻と、言葉がぞんざいで性格もがさつな八っつぁんとのやりとりが滑稽な名作中の名作。

 還暦を過ぎて初心に立ち返り、落語と向き合ってみよう。挑戦が始まった。

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