漫画家・矢口高雄さんを悼む 2度の「もう描かない」…決意知り新作諦めた

[ 2020年11月26日 05:30 ]

矢口高雄さん
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 「釣りキチ三平」で知られる漫画家の矢口高雄(やぐち・たかお、本名高橋高雄=たかはし・たかお)さんが20日午後5時46分、膵臓(すいぞう)がんのため都内の病院で死去した。81歳。秋田県出身。緻密な描写で自然と人間の関わりを描き、昭和の釣りブームの立役者だった。

 【悼む】初めて矢口さんとお会いしたのは2015年の夏。スポニチ本紙の戦後70年企画の漫画家インタビュー連載「あしたのために」の取材だった。自身の戦争体験、戦後日本における「自然と文明の調和」について丁寧に語る矢口さんに、5年余り新作がなかった三平シリーズの次作について聞くと「漫画はもう描かない」と思いもよらぬ答えが返ってきた。

 矢口さんは愛娘の病死で「気力が湧かない」ことに加え、自身の前立腺がんの手術で「体力的に何日も座って描けない」ことが理由と語った。うなだれて話す姿から、新作はもう読めないと思った。

 それが3年後の18年にスピンオフ作品「バーサス魚紳さん!」がスタートした。絵は立沢克美さんが担当し、矢口さんはアイデアを提供。取材を申し込むと前回とは違う生き生きした姿。発表前の物語を、コマ運びまで想像できるように細かく説明してくれた。思わず「先生も描きましょうよ」と愚問を投げかけ「私はもう描かない」と返されてしまった。きっぱりした口調にもう新作の絵は見られないと諦めた。それでもファンとして、絵は描かなくとも原案提供などの形で新作が出ることを期待していた。だが、それもかなわなくなった。今は寂しさをかみしめている。(岩田 浩史)

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2020年11月26日のニュース