三谷幸喜氏が語るコロナ禍の演劇「知恵比べ」中止覚悟も「大地」再開先陣 演者全員マスクも「なくはない」

[ 2020年7月18日 08:00 ]

演劇再開の先陣を切った舞台「大地」の脚本・演出を手掛けた三谷幸喜氏。コロナ禍の演劇について語った
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 脚本家・演出家の三谷幸喜氏(58)が手掛けた新作舞台「大地」は今月1日、東京・渋谷のPARCO劇場で開幕した。劇場側はもちろん、演出面も新型コロナウイルス対策を徹底し、観客を入れて上演した初の主要劇場&作品。三谷氏が1994年からホームグラウンドとしているPARCO劇場で演劇再開の先陣を切った。不都合を逆手に取り、より豊かな演劇表現に挑む「Social Distancing Version」。最悪、中止も覚悟したという三谷氏に、コロナ禍における演劇について聞いた。

 左右1席ずつ空いた座席につく観客。チケット販売は客席(636席)の50%以下、最大318席。初日の開演前、話し声はほとんど聞こえず、場内は静まり返っていた。1924年(大13)に誕生した日本初となる新劇の常設劇場「築地小劇場」にならい、三谷氏が演劇再開の思いを込めた銅鑼の音とともに幕が開ける。やがて笑い声の連続。上演時間は約2時間55分(休憩25分)。カーテンコールは1回だけで「拍手をしても無駄です。速やかにお帰りください」と三谷氏のアナウンスが流れた。

 開幕から数日後のインタビュー。新型コロナウィルス対策のため、客席の配席と公演スケジュールの見直し(公演数は56から45に減)を行い、当初の6月20日から延期となった初日を終えた心境を尋ねると、三谷氏は「あまり演劇界を引っ張るようなタイプではないんですけれども、今回は本当にたまたま、図らずも大きな劇場で最初に舞台を再開するポジションになって。稽古期間中から『PARCOが“大地”を上演するんだったら、ウチも』といった他の劇場の声も聞こえてきました、誰かが先陣を切らないと先へ進めないわけで、これは頑張らなきゃいけないと思いましたし、待ってくださっているお客さんの期待にも応えなきゃいけないという思いで準備を進めてきたのは間違いありません」と切り出し、振り返った。

 「ただ、じゃあ、幕が開いたからホッとしたかと言えば、全然そうではないんですね。別にそこがゴールではないですし、8月まで(東京公演の千秋楽は8月8日、大阪公演は8月12~23日)ずっと上演できるのかという意味では不安は当然あるわけで。それが叶ったところで、演劇界がその後どうなっていくのか、まだまだ分からない状態。とりあえず一歩先へ進めただけであって、到達点では全然ないので、初日に感慨があったかと言うと、あまりそうでもなかったですね。お客さんも俳優さんも初日は特に緊張していて、今も緊張は続いているんですれども、今回は本当に劇場中が緊迫した中で幕が開いて。初日を終えて、その緊張感からいったん解放されたということは、もちろんありました」

 とある共産主義国家。反政府主義のレッテルを貼られた俳優たちだけが収容された施設があった。強制的に集められた彼らは、政府の監視の下、広大な荒地を耕し、農場を作り、家畜の世話をした。過酷な生活の中、何より彼らを苦しめたのは「演じる」行為を禁じられたことだった…。

 大泉洋(47)山本耕史(43)竜星涼(27)栗原英雄(55)藤井隆(48)濱田龍臣(19)小澤雄太(34)まりゑ(34)相島一之(58)浅野和之(66)辻萬長(76=「辻」は一点しんにょう)と豪華キャストが顔を揃えた群像劇。俳優なのに、演じられない。初稿は昨年執筆していたが、コロナ禍にある今を予見したような設定。不可思議な生き物“俳優”とは何なのか。俳優への愛を込めた「三谷流俳優論」が笑いとともに展開される。

 脚本・演出に3密を避ける工夫を凝らし、より豊かな演劇表現に挑む「Social Distancing Version」と銘打った。ステージ上のセットは俳優たちが収容され、生活を送るバラックの1シチュエーション。これが9分割。8つのベットが置かれ、大泉は下手(前列左)、山本は中央など、個々の“定位置”における演技も多くあり、演者間の距離が十分に保たれている。

 入場時の検温や観劇時のマスク着用などはもちろん、化粧室を利用した後の抗菌・消毒マットによる靴裏消毒と劇場サイドが対策を徹底。クリエイター側の三谷氏も「これほどのものはないんじゃないかというぐらい、お客さんに安心して楽しんでいただく環境をPARCOさんが整えてくださったので、お客さんが不安を感じない内容の芝居を作ろうと。安心できる環境でも、見ているものが“3密な芝居”だったら、お客さんも不安になるじゃないですか。俳優さんたちとお客さんの安全面・安心面を同時に考えて、俳優さんたちができるだけ接触しない芝居になりました」と応えた。

 絶対に公演を打つべく、準備期間中は頭をひねった。「言い方は変ですけれども、僕はPARCOさんに雇われた脚本家・演出家なので、気が楽と言えば楽なんですよね。どんなに赤字になろうと、困るのは毛利さん(同席した毛利美咲プロデューサー)なので」と笑いを誘いながら「だから、僕が考えないといけないのは、最終的にどういう舞台を作り上げるかということ。いろいろと毛利さんに相談して、何パターンかシミュレーションしました」と明かした。

 「もちろん一番いいのは、お客さんを入れた普段と変わらない形。それが叶わなかった時は、どういうことができるんだろうかと。ただ、どんなことがあっても、僕は何らかの形で『大地』という作品を上演したいと思っていました。それが無観客になるかもしれないし、配信だけになるかもしれない。極端なことを言っちゃうと『この状況で演じるのは難しい』というキャストの方が誰か1人でもいらっしゃったら、その時は(中止も)しようがないと思ったんですよね」と覚悟も。「だとしても、じゃあ、そうなったら途中で『大泉洋1人芝居』に演目を変えようとすら考えました。1人ならソーシャルデイスタンスも関係ないので、大泉さんには『最悪の場合、そう(1人芝居に)なるかもしれない』と冗談半分で伝えて。それぐらい、いろいろと考えました。これも極端な話ですけれども、例えば演者全員がマスクをして舞台に立つのも、なくはないと思ったんですよね。中止するよりは『マスクして芝居ができるんであれば、やろうよ』ぐらいの気持ちでいましたから。マスクの上からメイクをして、マスクをしていないように見せることも、できないことはない。これは冗談じゃなく、そんなことすら考えました」

 「もう将棋みたいなもので。向こう(コロナ)がこういう手を打ってきたら、僕はこうやって先に布石を打っておこうみたいな。コロナとの知恵比べみたいな感じでした」。準備期間中は前だけを向いていた。

 最も大変だったのは「バンチョー(バンチョウ)さんですね」とベテラン・辻萬長の“通り名”で即答。井上ひさし氏主宰の劇団「こまつ座」の看板俳優で、数々の舞台・ドラマ・映画を彩ってきた辻の公式サイトによると、本名の「カズナガ」で呼ぶのは「親兄弟と親戚ぐらい」という。

 「バンチョーさんは『相手に近寄らない』という演出でも、気持ちが入ってくると、どうしても前に出ちゃう。いつもの芝居だったら全然OKなんですけれども、今回はその都度、『前に出ないでください』と。バンチョーさんも『ああ、そうか、そうか』とおっしゃっていたんですけれども、そのうち『なぜ(近寄ったら)ダメなんだ!』と怒鳴られるんじゃないかと心配していました(笑)。俳優さんの生理としては、近づきたいのに近づけないというのは、やっぱり変は変なんですよね。そこは、ちょっと無理をお願いした心苦しさはありました」。自身の作品に初出演となる憧れの辻を、三谷氏がどう料理したのか。特に大爆笑、拍手喝采を呼ぶ2幕は必見だ。

 「人間って凄いなと思うんですけれども、どんなピンチになっても、そこから新しいものが生まれてくることで、ずっと今まで文化は進んできたような気がします。まだ完ぺきなものにはなっていないかもしれませんが、リモート演劇も素直におもしろいと思いました。自分がやるかどうかは置いておいて、非常に可能性はあるなと。そうやって、みんなが工夫して、さらに先へ駒を進めている。僕も含め、今の状況をマイナスと考えない人たちがいる限り、文化は着実に進んでいくんだと思います」

 ◆「大地」東京公演第3クール<7月28日(火)~8月8日(土)>チケット一般発売開始日:7月19日(日)

 ◆イープラス「Streaming+」ライブ配信日時(税込み3000円=各公演、公演当日の開演時間まで購入可能)7月18日(土)12:00公演、7月18日(土)17:00公演、7月19日(日)12:00公演、7月25日(土)12:00公演、7月25日(土)17:00公演、7月26日(日)12:00公演、8月1日(土)12:00公演、8月1日(土)17:00公演、8月2日(日)12:00公演

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