劇作家、俳優、映画監督…松尾スズキ、眼鏡の奥に秘めた「笑い」への情熱

[ 2019年10月20日 10:00 ]

舞台に映画に幅広く活躍する松尾スズキ(撮影・小海途 良幹)
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 【俺の顔】劇作家、演出家、俳優、小説家、映画監督…松尾スズキ(56)の肩書を並べるだけで、その多才ぶりがうかがえる。宮藤官九郎(49)、阿部サダヲ(49)ら個性派が集う主宰の「大人計画」を中心に舞台、映画、ドラマと活躍の場は多岐にわたる。創作の全てに通底しているのが「笑い」だ。「自分が笑いを起爆して、客が笑っている瞬間が一番カタルシスを感じる」という求道者は、生粋の喜劇人である。

 ◆88年わずか団員5人「大人計画」を旗揚げ
 「子供の頃から漫画やコメディーなど、笑わせてくれるものは好きだった。それで(人を)笑わせようと思っていたのに、うまく笑わせられなかったから、それを今まで引きずっているような気がします」

 笑いを追求する原点を、松尾はこう語る。大学時代に学生演劇で作・演出・出演を兼ねる土台を築き、1988年に大人計画を旗揚げ。団員募集に来たのは5人だけ(全員合格)だったが、旗揚げ公演「絶妙な関係」を劇作家の宮沢章夫氏(62)が見たことで一躍注目を浴びた。

 「宮沢さんが劇評で取り上げてくれたんです。それで大人計画は面白いということが広まり、客がどんどん増え始めた。それを見て、自分も面白いことをやりたいと思った人が入り始めて、理想のメンバーになっていった感じです」

 ほとんどの作品で1人3役を続け、俳優としても後輩たちに背中を見せてきた。「宮藤や阿部が成長するまでは、だいぶ出ていましたね。自分が演じている姿が全てだと思っていて、ここからここまでは演じられるという振り幅を見せることでおのおのが感じ取ってくれと。ウチは面白いと思ったらどこまでもやれみたいなところがありますから」

 面白いことをどこまでもやるために、作品には常に笑いがちりばめられる。創作の原動力は「思いつき」だという。

 「現実に起こった事件でひらめくこともありますけれど、例えば人間が椅子になったらどうなるかというような奇矯な思いつきをメモしておいて、この題材は映画に、これは舞台、あれは小説に使えるかなと振り分けているところはあります」

 だが、ただ笑わせればいいというわけではない。あくまで基盤となるストーリーを練り、その中での必然として生まれる笑いにこだわる。

 「やり始めた当初はコントの公演もやっていたんです。でも、物語に対する欲求が自分のどこかにあるんでしょうね。純粋に笑いだけをやりたければ、芸人になればいいわけですから」

 ◆仕事の精度上げてムダ撃ちしたくない
 大人計画以外にも映画やドラマへの出演が増え、04年には「恋の門」で映画監督に初挑戦。そして、第4作「108 海馬五郎の復讐(ふくしゅう)と冒険」(25日公開)で監督・脚本に加え初めて主演した。

 「自分の撮る映画には割と出ていますが、主演のものを撮っておきたいと50歳くらいの時に思ったんです。老いていくことと笑わせることが、どれくらい比例、または反比例するのか。その頃に一人芝居にもチャレンジしていたので、体が動くうちにという焦りもあったんでしょうね」

 脚本家の海馬五郎が、SNSで妻(中山美穂)の浮気を見つけ、復讐のために「いいね」と同じ数の108人の女性を抱こうと奔走する奇想天外な物語。文字通り体を張った松尾の奮闘には思わず笑ってしまう。

 「人が最もやりたくないことをあえてやってみようと思って。あれだけ大勢の人とセックスをすれば、ただセックスシーンを撮りたかったのではないだろうと思ってもらえるだろうと。そのくらい大変なことにチャレンジする気概を持って、背水の陣で考えました。想像以上に大変でしたけれど、笑いがあったから乗り切れた。(共演の)俳優さんたちもけっこう笑わせてくれて、モチベーションをアシストしてくれました」

 なぜ、これほどまでに独創的で多様な作品を作り続けられるのか。当然、生みの苦しみもあったはずだ。「幸いなことに、やりたいことがないという時期がなかった。たまたま仕事が来続けたこともあるし、自分が思いつく企画もけっこうあった。思いつく段階が楽しくて、こなす段階は苦しみでもあるんですけれど、これはできねえなということはなかったかもしれない」

 しかも、それぞれの仕事がインスピレーションを与え合い、プラスに作用しているというから恐れ入る。では、この先は何を追い求めていくのだろうか。

 「今までやってきたことを、もっと研磨していくことでいいんじゃないですかね。自分の中にはアマチュアリズムの良さみたいなものが根っこにあって、そういうものは忘れないようにしたいけれど、ムダ撃ちはもうしたくない。ひとつひとつの仕事の精度を上げていきながら、エンディングを迎えたいです」

 謙虚な中にも、眼鏡の奥に次なる“たくらみ”への思惑が垣間見えた。

 ≪シアターコクーン芸術監督就任≫松尾はこのほど、東京・渋谷のシアターコクーンの芸術監督に就任。その第1弾が「キレイ―神様と待ち合わせした女―」(12月4~29日)だ。00年に初めて手掛けたミュージカルの4度目の再演で、乃木坂46の生田絵梨花(22)、初舞台となる神木隆之介(26)らが初参加。今回は演出に専念し「ミュージカルとしての完成度をより高めたいし、手応えはあります」と腕を撫す。さらに「渋谷という混とんとした街の中で、自分の作風であるグロテスクさや笑いと色気やけれんが合わさった、いい意味での妖しさを発信していきたい」と芸術監督としてのビジョンも語った。

 ◆松尾 スズキ(まつお・すずき)1962年(昭37)12月15日生まれ、福岡県出身の56歳。88年「大人計画」を旗揚げし、主宰として数多くの作品で作・演出・出演を務める。97年「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で岸田國士戯曲賞を受賞。04年、初の長編映画監督作「恋の門」がベネチア国際映画祭に出品。小説家としては「クワイエットルームにようこそ」「老人賭博」「もう『はい』としか言えない」で3度芥川賞候補に。

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