井浦新、煮えたぎる映画への熱情 自分と役者の距離を埋め「ARATA」から本名に

[ 2019年7月28日 10:00 ]

クールな表情を見せる井浦新(撮影・荻原 浩人)
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 【俺の顔】クールであまり感情を表に出さない印象の強かった俳優の井浦新(44)。だが、その内奥には煮えたぎるほどの熱情が秘められている。是枝裕和監督(57)に見いだされ、若松孝二監督との出会いによって芸名を改め、難しさの中に潜む演技の楽しさを知った。必ず帰ってくる実家と称する映画への思い入れは「映画作り中毒」と自任するほどの熱さだった。

 井浦は99年、是枝監督の「ワンダフルライフ」でARATAとして主演デビュー。オーディションでその座をつかんだが、その時の課題は演技などではなく「あなたの思い出を書いてください」というテーマの作文だった。

 「声を掛けてくれているということで、小学校の時に家族で旅行に行った時に車のラジオから流れているビートルズの曲のことを書いて送ったら、監督が会いたいから来てくださいとなった。会ってその次の段階で主役に決まりました、となったので、うれしいということも分からないまま是枝監督と食事に行く日々が始まった感じでした」

 手応えのないまま映画界に身を投じたこともあり、俳優として生きていく確信は持てなかった。出演作はコンスタントにあったが、しゅん巡と葛藤の日々だったという。

 「いろいろな監督の下で勉強させてもらって、ちょっとずつ血肉になっているんですけれど、がむしゃらになれているのかと言われると僕はその感覚をまだ肌でつかんでいなかったと思います」

 もろもろの迷いを払拭(ふっしょく)するきっかけが、07年の「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)」。“育ての親”となる若松監督との出会いだ。

 「芝居の難しさを思い知らされて、楽しいなんて簡単に言えなくなった。でも、答えが分からないものが見つかるはずはないと、自分と役者の間の距離が遠く感じた時に役者をなりわいにしている大切さを実感したんです。苦しくてつらいことしかないけれど、だから楽しいということに気づかされた。その距離を埋めていく作業を地に足を着けてやり始めたのが若松監督と出会ってからです」

 そして、11年「11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち」の主演を機に、芸名を本名に変えた。役者として生きる「気持ちが備わった証だと思います」と振り返る。

 「若松監督が、日本の心を映画で表したいとおっしゃったのが“火種”でした。主演で最初にクレジットされるのだから、アルファベットではなくて漢字で出たい。若松監督に全てをささげたいという気持ちからでもあるんですけれど、僕の中では必然だった。迷いもなく、最高の場だと思いました」

 当の若松監督には、「名前が変わっちゃうと、誰なのか分からない。客が呼べねえ、バカ野郎」と怒られたそうだが、それもうれしさの裏返しだろう。昨年の「止められるか、俺たちを」では、若松監督本人を演じた。オファーを受けた後の約1カ月は“音信不通”にしたほど悩んだが、今では幸福感に満たされている。

 「演じたことによって、なおさら存在がでかくなりました。若松監督の名を借りて、自分ではできないことを極端にやった芝居。若松監督は大きなリスクを背負って、不自由な中で思い切り自由に生きていた。改めて凄いと思います」

 一方、“生みの親”である是枝監督へのリスペクトも変わらない。「万引き家族」のカンヌ映画祭でのパルムドールについてはもちろん、称賛を惜しまないが、それ以上にベネチア国際映画祭のオープニングに決まった最新作「真実」(10月11日公開)に、イーサン・ホーク(48)が出演していることに喜びを隠さない。

 「“ワンダフルライフ”の時にどんな役者が好きかという話をしていて、是枝監督はイーサン・ホークが好きだと言っていたんです。そのイーサン・ホークと仕事をしているからすげえな、と思って震えました。是枝監督の夢をつかむ強さを感じましたね」

 2人の師の教えを胸にドラマやドキュメンタリーなど活動の幅を広げ続けているが、起点は常に映画だと主張する。

 「生まれも育ちも映画の現場なので、当たり前の環境というか凄く大切な場所。全くできなくなる可能性もあるので決して安心はしていませんが、そこでずっと表現していたい。10年後、100年後でも作品が残って、見てもらって誰かのためになるのであれば、あらゆる映画に関わって、その年でしかできないことをやり続けていけたらいいなと思います」

 穏やかな語り口だが、力強い言葉の数々に並々ならぬ決意がにじんでいた。

 ≪主演映画「こはく」公開中 横尾監督と腹を割って1シーンずつ「台本を超えていく感じ」≫井浦の主演映画「こはく」(監督横尾初喜)が公開中だ。虚言癖のある兄とともに、幼少期に失踪した父を捜す弟・亮太という役どころ。横尾監督の実体験をベースに家族の絆を問う物語で「温かく優しい空気が流れている中で、監督と腹を割って話し合いながら一シーン一シーンを丁寧に撮って、台本を超えていくような感じになった」と満足げに振り返る。兄役は、大橋彰の本名で出演したアキラ100%(44)。もちろん初共演だが「最初から何の心配もしていませんでした。同い年でフィールドは違えど表現者ですから、言葉にしなくてもいい間合いでできている印象がありました」と称えた。

 ◆井浦 新(いうら・あらた)1974年(昭49)9月15日生まれ、東京都出身の44歳。99年、映画「ワンダフルライフ」の主演で俳優デビュー。12年「かぞくのくに」でブルーリボン賞助演男優賞を受賞。主な主演映画は「DISTANCE」、「青い車」、「光」、「嵐電」など。声優を務めた「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」が8月2日、「宮本から君へ」が9月27日にそれぞれ公開。

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