古舘伊知郎が選ぶ平成の名実況 五輪、野球、W杯、プロレス…1位は?

[ 2019年4月24日 09:30 ]

数々の名実況でスポーツを盛り上げた古舘伊知郎(撮影・会津 智海)
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 【平成の10大○○ 4】夏冬の五輪やサッカーW杯、野球、格闘技など数々の激闘が繰り広げられてきた平成のスポーツ。それらの戦いをテレビの視聴者に伝えた実況の中で歴史に残るものはどれか!?プロレス中継などの名実況で知られるフリーアナウンサー・古舘伊知郎(64)が独自の視点でベスト10を選んだ。

 良い実況とは、ピカソのキュービズム(さまざまな角度から見た人や物の形を一つの絵に収めるもの)、舌先のキュービズムです。

 その典型が、2004年8月のアテネ五輪・体操男子団体総合決勝のNHK・刈屋富士雄アナウンサー(当時)の実況です。解説は1988年のソウル五輪の体操男子団体で銅メダルを獲得したメンバーの一人、小西裕之さんでした。小西さんは日本の28年ぶりの金メダルが決まった瞬間、何もしゃべれず、おえつを漏らしました。

 その時の刈屋アナの実況が凄い。

 「小西さん、どうぞ泣いてください。小西さんの目から大粒の涙がこぼれてきました」

 自分のごく身近な人の涙を描写することで日本中の涙を誘った。二次元になりがちな実況を三次元にしたのです。これが実況のキュービズムです。

 そんな実況に「歴史」の要素を加えたのが2010年8月、全国高校野球選手権決勝・興南対東海大相模の朝日放送・清水次郎アナウンサー(当時)です。興南が春夏連覇を達成し、沖縄全土を歓喜に包んだ時、清水アナはこう話しました。

 「半世紀前、甲子園の黒土さえ持ち帰れなかった琉球の島へ、深紅の大優勝旗が初めて渡ります」

 1958年、甲子園に初めて沖縄代表として出場したのは首里高校でした。当時、沖縄は米国の統治下にありました。初戦で敗退した首里の選手たちは甲子園の土を持ち帰りましたが、那覇港で検疫に引っかかり、没収されて海に捨てられてしまいました。

 清水アナの実況は、二度と起こしてはならない戦争の傷痕を含むものでした。この実況の良さは重い歴史をさらりと表現しているところです。「語りの“豆腐よう(豆腐を使った沖縄の発酵食品)”」とでも言うべき、凝縮された、うまさがあります。

 平成が終わり令和が始まろうとしている今、昭和から平成への流れを含んだこの実況をトップにさせていただきます。

 【古舘伊知郎が選ぶ平成の名実況ベスト10】

 (1)2010年(平22)8月、全国高校野球選手権決勝で興南が東海大相模に勝利。
 「半世紀前、甲子園の黒土さえ持ち帰れなかった琉球の島へ、深紅の大優勝旗が初めて渡ります」(朝日放送・清水次郎アナ)。戦争の傷を描いた名実況。

(2)2004年(平16)8月、アテネ五輪・体操男子団体総合決勝で日本が金メダル。
 「小西さん、どうぞ泣いてください」(NHK・刈屋富士雄アナ)。二次元の実況を三次元に。

(3)1992年(平4)7月、バルセロナ五輪・柔道71キロ級決勝で古賀稔彦がハイトシュに判定勝利。
 「古賀は小さく控えめにガッツポーズ。ハイトシュの方は自分が勝ったと大きなガッツポーズ」(NHK・石橋省三アナ)。武道対スポーツの構図を表現。

(4)2012年(平24)8月、ロンドン五輪・女子バレー3位決定戦で日本が韓国に勝利。
 「探していた、見失っていた光は、ロンドンの風の中にありました」(NHK・広坂安伸アナ)。これはポエム。

(5)1997年(平9)11月、サッカーW杯フランス大会アジア第3代表決定戦・日本対イラン。
 「スコールに洗われたジョホールバルのピッチの上に、フランスへの扉を開ける一本のカギが隠されている」(NHK・山本浩アナ)。これもポエム。

(6)1998年(平10)2月、長野五輪・ジャンプラージヒル個人で原田雅彦が銅メダル。
 「立て、立て、立て、立ってくれ。立った~」(NHK・工藤三郎アナ)。国民の思いを背負った連呼。

(7)2011年(平23)3月、東日本大震災復興支援チャリティーマッチ・日本代表対Jリーグ選抜で三浦知良がゴール。
 「カズはやはりカズでした」(日本テレビ・田辺研一郎アナ)。復興への思いをカズに凝縮。

(8)2002年(平14)6月、サッカーW杯日韓大会の初戦・日本対ベルギー。
 「早くその時が訪れてほしいような、もう少し、今、この待つ楽しみを味わっていたいような、複雑な思いが駆け巡ります」(NHK・栗田晴行アナ)。直前の葛藤を巧みに表現。

(9)2017年(平29)1月、箱根駅伝で青学大が3連覇。
 「この青山学院大学は高い木として育ちました」(日本テレビ・河村亮アナ)。予定調和の美。

(10)1998年(平10)4月、アントニオ猪木引退試合。
 「この男は格闘技の英雄か、それとも時代の娼婦(しょうふ)なのか」(古舘伊知郎)。猪木の魅力を表現。 ※肩書は当時

 ≪番外編は「○○ソン」11人「○○ッチ」6人 W杯語り切った≫昨年の平昌五輪・フィギュアスケート男子SPで羽生結弦がトップに立った時の「異次元の強さです」(NHK・鳥海貴樹アナ)など数々の名実況の中で古舘が“番外”として推したのは、昨年のサッカーW杯・アイスランド対クロアチア戦の実況。両国には「◯◯ソン」という名の選手が11人、「◯◯ッチ」という名の選手が6人。実況の困難さが予想されたが、日本テレビ・中野謙吾アナウンサーは詰まることなく語り切った。

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