「いだてん」は紀行も異色 新鋭監督起用し人物取材も 余韻より「前のめり」の90秒

[ 2019年2月3日 10:00 ]

人物インタビューも行う異色の「いだてん紀行」。第2話に登場した川内優輝(上)と第4話に登場した青学大・原晋監督(C)NHK
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 歌舞伎俳優の中村勘九郎(37)と俳優の阿部サダヲ(48)がダブル主演するNHK大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜」(日曜後8・00)の最後に流れる「いだてん紀行」が例年と趣を変え、話題を呼んでいる。従来の「ドラマゆかりの土地紹介」とは一線を画し、人物インタビューやイラストを用いる異色の構成。同局の家冨未央プロデューサーとメーンディレクターを務めるドキュメンタリー監督の山崎エマ氏(29)に企画意図やこだわりについて聞いた。

 大河ドラマ58作目。2013年前期の連続テレビ小説「あまちゃん」で社会現象を巻き起こした脚本家の宮藤官九郎氏(48)が大河脚本に初挑戦。オリジナル作品を手掛ける。20年の東京五輪を控え、テーマは「“東京”と“オリンピック”」。日本が五輪に初参加した1912年のストックホルム大会から64年の東京五輪まで、日本の激動の半世紀を描く。“近現代大河”は86年「いのち」以来33年ぶり。

 勘九郎は「日本のマラソンの父」と称され、ストックホルム大会に日本人として五輪に初参加した金栗四三(かなくり・しそう)、阿部は水泳の前畑秀子らを見いだした名伯楽で64年の東京大会招致の立役者となった新聞記者・田畑政治(まさじ)を演じる。主演リレーは00年「葵 徳川三代」以来19年ぶりとなる。

 “大河紀行”はナレーションとともに、ドラマゆかりの土地を紹介する約1分半の映像。昨年12月9日に放送された「西郷どん」第46話「西南戦争」の「西郷どん紀行」が巡ったのは、熊本県熊本市と宮崎県延岡。西南戦争最大の激戦地「田原坂三の坂」や「西郷隆盛宿陣跡資料館」などの今を伝えた。

 「いだてん紀行」は同局の池田伸子アナウンサーが語りを担当。第1話(1月6日)は柔道の父・嘉納治五郎にちなみ、柔道男子日本代表監督で00年シドニー五輪100キロ級金メダリスト・井上康生氏(40)にインタビュー。第2話(1月13日)は「金栗四三杯 玉名ハーフマラソン」に毎年出場している公務員ランナー・川内優輝(31=埼玉県庁)を取材。第3話(1月20日)はセサミストリートなどのキャラクターも手掛ける絵師・先斗ポン太氏のイラストを使用し、実在した日本最初のスポーツ同好会「天狗倶楽部」を紹介。第4話(1月27日)は四三が取り組んだ「脂抜き走法」などスポーツ指導に関連し、青山学院大学陸上部の原晋監督(51)にインタビューした。

 土地紹介にこだわらない今回の「紀行」について、家冨プロデューサーは「『いだてん』は近現代の話なので、登場人物と現在の“距離感”が近いんです。それなら、登場人物の空気感を知っている人や登場人物の何かを受け継いでいる人にリーチしたいと、2017年の秋頃からチーフプロデューサーの訓覇(圭)、チーフ演出の井上(剛)と話をしていて。『紀行』も新しい試みにチャレンジしてみようということになりました」と経緯を説明。約1年前の17年12月、若手ディレクターたちの忘年会があり、家冨氏が参加。そこで偶然、エマ監督と初対面した。

 エマ監督は当時、翌年18年に記念の第100回を迎える夏の甲子園のドキュメンタリー企画のため、高校野球の取材をしていた。忘年会の席で「高校野球から日本の社会が見える」などと家冨氏に熱く語ると、後日すぐに家冨氏から連絡が入った。

 家冨氏は「新しい『紀行』を一緒に作ってくれる新しい才能を見つけられたらと思っていたところに、ちょうど忘年会があったんです。クリスマス前後だったので、エマさんは天から舞い降りてきた天使かもしれませんね」と笑った。

 日本人の母と英国人の父を持つエマ監督は神戸生まれの29歳。19歳の時に渡米し、ニューヨーク大学映画制作学部に進学。編集と共同プロデュースを担当した長編ドキュメンタリー「CLASS DIVIDE」が2015年、米最大のドキュメンタリー映画祭「DOC NYC」グランプリ受賞。18年夏にはクラウドファンデングにより約2000万円を集めた初の長編ドキュメンタリー監督作「モンキービジネス おさるのジョージ著者の大冒険」が公開され、反響を呼んだ。

 「エマさんは日本と海外という2本の柱に向き合っている。この『いだてん』もまさに、日本人がどうやって世界に飛び出し、そして世界がどのように日本を見たかという2つの視点があります。エマさんが2つの視点を自然と持っているところに魅力を感じました。そして、スポーツを非常に愛していて、ちょうど高校野球を取材していて、強いパッションを感じました。だから、どんなスキルを持っていて、どんな番組を作ってきたかはもとより、このタイミングで出会うエマさんとの縁、エマさんの情熱に惹かれました」

 1912〜2012年の夏季・冬季オリンピックの記録映画を復元したDVDボックス「100イヤーズ・オブ・オリンピック・フィルムズ」を監修したエイドリアン・ウッド氏とエマ監督が知り合いで、エマ監督の夫の会社がオリンピックの記録映画をいくつか修復したという縁もあった。

 「自分は高校卒業まで関西にいて、そこから10年近くニューヨークにいて日本を離れていましたが、2020年の東京オリンピックの時には日本から世界に発信したいと思っていました。なので、大河ドラマという本当に多くの人に届けられる今回のお話を頂いた時には、まさかというか、幸運というか、夢のような感じでした」

 題材選びは台本を読み、決める。第1話の「紀行」は「私は全く知らなかったのですが、台本を読んだり、調べたりすると、お札の肖像になってもいいぐらいの人だと本当に感動しました」(エマ監督)という嘉納治五郎を取り上げた。柔道家の尊敬の的だが、特に思いが強い井上康生氏にインタビュー。井上氏がスローガンにしている治五郎の教え「精力善用 自他共栄」(己の力を最大限に生かし、世のため人のために役立つ)を「広めたいと思いました」(エマ監督)。

 20〜30分はインタビューしているが、放送の尺は90秒。「収めるのは大変です」と苦笑いしながらも「90秒じゃ足りないと思う反面、大河ドラマの直後に流れる90秒だからこそ、たくさんの人に届けられるということも分かっています。例えばナレーションを1行切るかどうか。1秒1秒を大切に、90秒だからこそ届くこということを忘れず、素材を凝縮して編集しています」とポリシーを明かした。

 過去の「紀行」と比べても「情報量は多いと思います。視聴者の皆さんに『あれも知ってほしい。これも聞いてほしい』と願って詰め込んでいます」。家冨氏も「今までの『紀行』は『ここにお墓があるのか』というように、ドラマの余韻の中に感動があったと思いますが、『いだてん紀行』は余韻というより『へぇ!』と前のめりになります。そこが新しいんじゃないでしょうか」と手応えを示した。エマ監督は全47話のうち、3分の2程度を担当予定。「今後も毎回、何が出てくるか分からないので、楽しみにしていただけると、うれしいです」と呼び掛けた。

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