【俺の顔】立川志らく、落語で苦悩した師匠・談志へ伝えたい“これで私は大丈夫”

[ 2018年5月20日 10:30 ]

師匠・立川談志さんの真似をする立川志らく
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 人気落語家の立川志らく(54)。TBSの情報番組「ひるおび!」のコメンテーターとしてもすっかりおなじみで、尊敬する山田洋次監督(86)の最新映画「妻よ薔薇のように 家族はつらいよ3」(25日公開)にも出演。他にも劇団主宰、競馬の予想などたくさんの「おもちゃ」で遊び芸を磨く。11年に死去した立川談志師匠(享年75)も巧みに演じる志らくの一席――。

 高座に扇子が欠かせないように、テレビでは丸眼鏡を掛けることがこだわり。「落語は作品をやるから“ひるおびの人が出てきて落語をやってるよ”って見えるのが凄く嫌なんです。自分の中での区切りにもなるし、眼鏡で落語とテレビを切り替えています」。16年10月から「ひるおび!」に出演。小気味いい毒舌とウイットに富んだコメントでお茶の間に浸透し、バラエティーにも引っ張りだこだ。

 憧れの山田作品にも俳優として出演した。映画評論家、監督の顔を持つ大の映画好きで、中でも“寅さん博士”の異名を取るほど「男はつらいよ」のファン。山田監督が手掛ける喜劇「家族はつらいよ」シリーズの第3弾「妻よ…」では、舞台となる家庭に泥棒が入り、現場検証に訪れる刑事を演じた。「山田洋次ワールドに入れるのは夢みたいなもの。客席で見てたわけですから、絵画の中に入るのと同じ気持ちです」

 現場では監修を務めた元刑事に実際の動きを見せてもらい、テストを重ねて撮影に臨み「ほぼワンテークOKでした」と誇らしげな笑顔。ベテランスタッフから「ワンテークOKなんてまずないよ。監督がニコニコ笑いながらやってたってことは、気に入ってるってことだよ」と褒められた。「憧れの世界に飛び込んで自分が壊すようなことをしたらとんでもないと思っていたので、非常に気が楽になりました」と振り返り、「ただ(共演の)夏川結衣さんが驚くほど尋常じゃない汗をかいてたみたいです。体が異常反応を起こしていたということですね」とサゲを加えた。

 談志師匠が才能を高く評価した愛弟子で、テレビで売れっ子になることを期待していただけに活躍を喜んでいるだろう。「おそらく談志が生きてたら“あぁ、志らくのやつはテレビという面白いおもちゃを見つけたんだ。だからそこで遊んでるんだな”っていう言い方をすると思う。私が演劇や自主映画を作った時も同じように言ってました」。特徴的なしゃがれ声と表情で師匠をよみがえらせる。

 落語家生活25周年を迎えた2010年に掛けられた言葉。「おまえはあと10年で俺と同じように狂う。落語をどう表現したらいいか考えすぎて狂ってくる。それはつらいぞ」

 予言の年まで2年となり、それに対する答えを見つけた。「結論も出ずに苦悩したまま死んでった人ですから、あんなに苦悩するのは嫌だなと、脱する方法をずっと考えていた。ひるおびをきっかけにテレビの仕事がたくさん来て、見たことない光景をいろいろ見ることができて面白い。師匠は途中からテレビをやらず落語だけになったけど、私は遊ぶ空間を見つけたので“師匠、これで私は狂わないと思いますよ”と言いたいです」

 主宰する劇団「下町ダニーローズ」の公演「人形島同窓会」(6月7〜17日、東京・下北沢の小劇場B1)の稽古にも励み、競馬の予想や俳句など「よろず屋みたい」な日々。政界進出も果たし落語だけにとどまらなかった談志さんのDNAを色濃く受け継ぐ。「芸能の場合は人生の経験値が最後に物を言うので、家の中で何百時間稽古した人よりも、外で何百時間いろんな経験をした人の方が最終的に勝つ。結果的に落語に返ってくるんです」

 残った資料などの管理が必要なため師匠の自宅も継いだ。18歳下の妻、5歳の長女、1歳の次女と家族で生活している。「談春兄さんには“師匠の家の管理人になった”って言われる。私が家賃を払って管理してるんです」と笑う。

 ご飯やお風呂、幼稚園の送迎もし、妻から「お母さん」と呼ばれるほど子煩悩。「子供も小さいから元気でいないといけない。師匠のように苦しんで志半ばで死んじゃうことはないように、自分が見つけたおもちゃを一つずつ楽しんで、楽しい落語家人生を送ろうと思います」。軽やかな言葉から、噺家(はなしか)としての覚悟がにじみ出た。

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