「半分、青い。」岐阜編秘話&東京編展望 北川悦吏子氏脚本「想像の斜め上」驚きの“執筆ペース”
女優の永野芽郁(18)がヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「半分、青い。」(月〜土曜前8・00)は、今月14日から東京編(胸騒ぎ編)が本格的にスタートした。岐阜と東京を舞台に、病気で左耳を失聴した楡野鈴愛(すずめ)が高度経済成長期の終わりから現代を七転び八起きで駆け抜ける姿を描くオリジナル作品。「岐阜編」の総括と「東京編」の展望をテーマに、制作統括の勝田夏子チーフプロデューサーにインタビュー。数々の撮影秘話が明かされた。「ヒロインが挫折する」などとストーリーの大筋を公表していても“ラブストーリーの神様”北川悦吏子氏(56)の脚本が「想像の斜め上を行く」と改めて絶賛。北川氏は自身のツイッターで苦闘ぶりを隠していないが、その裏には勝田氏も驚く“執筆スタイル”があった。(聞き手・木俣 冬)
◆恋と家族が両軸 スタッフが台本から想像力し工夫随所 鈴愛の「つけ耳」も反響大◆
――まずは岐阜編の総括をお願いします。
「『半分、青い。』はこれまでの“朝ドラ”ならではのホームドラマと、北川さんの十八番である鈴愛と律の長い長いラブストーリーの2つを横軸と縦軸にして織り成すものになるといいと思っていたところ、家族を描くことを避けてきたとおっしゃる北川さんのホームドラマが実に秀逸で、正に両軸が大きな力になってくれました」
――卒業式の帰り、お好み焼きを食べ、しんみりするシーン(第32話、5月8日)が鈴愛役と菜生役のオーディションの課題だったそうですね。
「(鈴愛役の)永野さんも(菜生役の)奈緒さんも、オーディションであのシーンを何度もやっています。最初軽い会話から始まって泣き出すという感情のグラデーションを出せることと、鈴愛と菜生という異なるキャラクターの両方をやってもらうことで違う面を見ることができる、ちょうどいい場面でした」
――梟会の4人がツケでお好み焼きを食べていたことが明かされたことは驚きでした。
「実は、他の回で『喫茶ともしび』のママ・まさこ(ふせえり)が『君たち、ツケ払ってね』と言う台詞がありましたが、尺の関係でカットされまして、ようやく最後にツケのエピソードが出せたんです」
――お正月に鈴愛が晴れ着を着ていました。楡野家の経済事情はどのような感じですか?
「成人式に晴れ着を作るような感覚で、東京に出ていく前に晴れ着くらい着せてやろうという親心だと思います。なけなしのお金で購入したか、もしかしたらレンタルという可能性もあります(笑)」
――鈴愛が就職試験で落ちた会社名が、過去の朝ドラヒロインの名前と関連職業だったことは、どなたのアイデアですか?
「あれは助監督が“落ちた会社のリスト”という台本の指定から遊び心で作り上げたものですね。スタッフは台本を読んで各々想像を膨らませ、自分なりに工夫を交えながらビジュアル化していきます。オンエアは各セクションの創造力の集大成です。鈴愛と律が作ったゾートロープ(回転のぞき絵)も、“ゾートロープ”というワード1つから、レコードのターンテーブルを使って回転させたり、周囲を小人の国のようにかわいくしつらえたり、そうしたディテールは現場スタッフのこだわりです。律の家を石造りで多角形のデザインにすることでセレブリティーな雰囲気を出すなども、美術スタッフの工夫です」
――他に印象に残るスタッフの仕事はありますか?
「鈴愛のつけ耳(右耳に装着し、音を拾いやすくしている)は、決して医療器具ではないのですが、美術スタッフがビジュアルだけでなく、機能性という意味でもある程度の整合性があるものをと、試作を重ねて作りました。おかげさまで視聴者の方々からの反響も大きく、興味を持って問い合わせをくださる方もいらっしゃるほどでした」
◆漫画家編は「スポ根的お仕事モノ」トヨエツ、永野や井川らとのアンサンブル楽しむ◆
――いよいよ始まった東京編はいかがでしょうか?
「東京編の中の漫画家編は、お仕事モノであり、スポ根的な人間成長ドラマです。鈴愛は秋風塾に入って秋風羽織(豊川悦司)にしごかれることで人間的に成長していきます。バブル真っただ中、カルチャー最前線の東京に放り込まれた岐阜の山猿・鈴愛ですが、怖気づかずに、むしろ周りをかき回すほど。ヒロインの一番粋のいい時期をお楽しみいただきたいと思います。くらもちふさこさんの漫画や、北川さんお得意のラブストーリー、カラフルなバブル期の東京、刺激的で個性的なキャラクター…などなど、故郷の岐阜編とはかなりテイストは変わります。が、岐阜の面々も引き続き登場しますのでお楽しみに」
――恋といえば、中村倫也さん演じる朝井正人が注目ですね。初登場の時、猫を肩に乗せた姿がインパクトありました。
「猫を飼っていることは台本に書いてありましたが、肩に乗せたのは演出家か中村さん本人のアイデアだと思います。予告であのカットを使ったら、ものすごくバズって驚きました(笑)」
――中村さんをキャスティングされたのはどなたですか?
「私です。朝ドラ『風のハルカ』(2005年後期)の時、私はサードの演出家で、まだ10代の中村さんが出演していて、以来注目していました。今回の正人は『風のハルカ』の時の役に少し近く、おっとりした語り口です。でも、つかみどころのない役で、そういう役はともすれば本当に何も引っ掛からずスーッと流れてしまう危険性もありますが、それをいかにキャッチーに見せることができるかが俳優の腕の見せどころ。中村さんには、それができると信頼しています」
――鈴愛のアシスタント仲間のボクテ(志尊淳)とユーコ(清野菜名)の雰囲気も良いですね。
「志尊さんはNHK『女子的生活』(今年1月)、清野さんはテレビ朝日『トットちゃん!』(昨年10〜12月)での主演を経て、今乗りに乗っている俳優さんたち。でも、2人とも謙虚で自然体。芝居はうまいし、待ち時間の佇まいもいい。鈴愛との3人のシーンは軽妙なところもハードなところも、とても見応えがあります。豊川さんが、彼らと井川遥さんを含めたオフィス・ティンカーベルのアンサンブルをとても楽しまれて、このメンバーとはすぐにまた何かやりたいとおっしゃっていたほどなんです。阿吽の呼吸で芝居をしている、理想のチームだと思います。何より、漫画のキャラのような突拍子のないところもある人物を見事に立体化されていることが素晴らしいです」
◆あらすじを知っていても楽しめる北川脚本「予測不能な台詞やシーンがおもしろい」◆
――とても楽しそうな漫画家編ですが、スタート前の4月27日に「100円ショップ編」(人生・怒涛編)のキャスト(間宮祥太朗、嶋田久作、斎藤工、キムラ緑子、麻生祐未、須藤理彩)が発表になりました。少し早くないですか?
「キャスト発表の時期は、撮影が始まる前に行うことが多いです。というのは、撮影中、通行人の方々に俳優さんの姿が目に触れるとバレちゃいますので。『半分、青い。』は台本が書き上がるペースが早くて、先々の撮影が始まってしまうので、発表が早まっているんです」
――実在の人物の一代記だと先々の話が分かっていて当然ですが、オリジナルだとストーリーをあまり知りたくない視聴者もいそうです。
「実在の人物の年代記にしろ、オリジナルにしろ、公式ガイドブックやノベライズであらすじは公表されていて、ある程度、情報を持った上でご覧になる方もいれば、それらやインターネットニュースを読まず、ドラマのオンエアだけを見ていらっしゃる方もいて、そうした方たちは漫画家になることをオンエアで初めて知って驚かれています。いろいろなタイプの視聴者がいらっしゃる中で、情報の出し方は課題ではありますね。ただ、大まかなあらすじを知られても、北川さんが描くその道程が想像の斜め上をいくものになっているので、お楽しみいただけると思います。北川さんの脚本は筋だけでは語れません。予測不能な台詞やシーン、そしてディテールがおもしろいので、あらすじを簡単にまとめて書くことが本当に難しいんです(笑)」
――自身のツイッターで「死にかけながら書いている」「作家として、これだけ追い詰められたことがあったかというくらいの物量」などとつぶやいている北川さんですが、執筆ペースは速いのですか?
「速いです。朝ドラは長丁場でペース配分が難しく、最初、余裕で書いていても、後半になると詰まってくることがあるものですが、北川さんは最後まで同じペースで書きたいと、何月までにここまで書くと計画を立てて、マラソンのラップタイムを正確に刻むように、それをきっちり守っていらっしゃいます。逆に、こちらの調べ物が追いつかなくなるくらいで(笑)。すごく真面目な作家さんです」
◆木俣 冬(きまた・ふゆ)東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンターテインメント作品のルポルタージュ、インタビュー、レビュー、ドラマのノベライズなどを手掛ける。レビューサイト「エキレビ!」にNHK連続テレビ小説(朝ドラ)評を執筆。2015年前期の「まれ」からは毎日レビューを連載している。昨年5月に近年の朝ドラ復活や過去の名作を考察した「みんなの朝ドラ」(講談社現代新書)を上梓。画期的な朝ドラ本と好評を博している。16年5月に亡くなった世界的演出家・蜷川幸雄さんが生前に残した「身体」「物語」についての考察を書籍化した「身体的物語論」(徳間書店、今月29日発売)を企画・構成。
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