頑張る女性たちへ 小林麻央さんからのメッセージと牛蒡の梅煮

[ 2016年10月15日 09:00 ]

牛蒡梅煮
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 【笠原然朗の舌先三寸】牛蒡(ごぼう)を最初に食べようとしたのはいったい誰か?

 泥付きは木の根のようで、洗った白い肌をかじると強いあくが舌の上の残る。食べるのは冒険だったはずだ。

 最初のころは、えぐみの薬効を信じて食べ始めたのかもしれない。

 皮をむいてささがきにし、酢水にさらしてから煮物や鍋材料にするのもよいが、皮をむかないで調理すると牛蒡本来の味がわかる。梅干しと一緒に煮た「梅煮」は大地の味。

 話は飛ぶ。

 乳がんと闘う小林麻央さんのこと。ブログ「KOKORO」をたまにのぞきに行く。

 肺や骨に転移があるという「ステージ4」の病床にありながら、闘病の日々、希望、後悔、家族への思いを等身大の言葉で語りかけてくる。

 同じがんで闘う人たちにとってどれだけ励ましになっていることか、と思う。言葉の鍵で希望の窓を開いている。

 がん患者ならずとも、内容は示唆に富んでいる。9月22日の「たらればは無し」。中で麻央さんはこうつづる。

 「癌の告知を受けてほっとした自分がいた。その1年半の間は身体が怠くて怠くて1日1日が精一杯だった。『癌になるくらいの身体だったんだ』と思ったとき、その間の自分を初めて分かってあげられて、受け入れられて、どこか、ほっとしたのだ」

 身体は「怠い」とサインを出していた。なのに精いっぱい頑張った。梨園の妻として、母親として…常に人から見られ、評価される立場だから、「辛い、苦しい、休みたい」…そんな当たり前のことさえ言えなかったのだろう。

 私の友人にも、そんな女性たちがいる。社会的に評価される仕事をしながら子育てをし、趣味も楽しみ、よく食べ、よく飲み、人生をおう歌している。行く手に自ら高いハードルを設定し、それを乗り越えることに喜びを感じる頑張り屋さん。

 輝いてみえる。一方で心配にもなる。

 10年近く前、私は原因不明の体調不良に見舞われた。心がふさぎこみ、体重も10キロ近く減った。知り合いの鍼灸(しんきゅう)師に診てもらった。

 「身体のバランスが崩れています。いつ大病に進行してもおかしくない」。「前がん状態」という言葉をその時、初めて聞いた。

 身体の声に耳を傾けよう。その時、思った。

 自分で弁当を作り、牛蒡を煮ておかずにした。丁寧に作った粗食は、心の栄養にもなった。

 「精いっぱい」、「頑張る」、「活躍する」、「輝く」…たった1度の人生を生きる指標としてこれらの言葉は励みにもなるだろう。だが「辛い」、「苦しい」、「休みたい」という身体の声に耳を傾け「自分をわかってあげる」時間もあっていい。

 麻央さんの“気付き”は、世の中の“頑張り過ぎ屋さん”への貴重なメッセージになっている。(専門委員)

 ◎身体の声が聞ける牛蒡の梅煮

 時間をかけて丁寧に作る。作る過程で心と身体が癒やされていく。

 (1)泥付きの牛蒡をたわしなどで洗い、5~7センチの長さに切る。

 (2)切った牛蒡を水から約1時間、弱火で煮る。

 (3)出汁(煮干し、コンブ、椎茸で取る)1、日本酒1、しょうゆ0・5、ミリン0・5の割合で合わせてから、煮きり、梅干し2、3個を加えた煮汁に牛蒡を投入。約1時間弱火で煮る。そのままでもよいが、冷めて味がさらにしみてからもおいしい。

 ◆笠原 然朗(かさはら・ぜんろう)1963年、東京都生まれ。身長1メートル78、体重92キロ。趣味は食べ歩きと料理。

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