【内田雅也の追球】「青信号」サインが出た途端に走れるすごみ サインに心が通えば強い

[ 2023年2月20日 08:00 ]

練習試合   阪神10-0サムスン ( 2023年2月19日    宜野座 )

<神・サムスン>6回、二盗を決める熊谷(撮影・岸 良祐) 
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 「グリーンライト」は青信号という意味だ。

 野球の試合で言えば、監督が走者に対して「いつでも行け」と盗塁を任せている意味になる。

 矢野燿大が監督時代の阪神は多くの走者にこの青信号がともっていた。走れる選手も多く、チーム盗塁数は4年連続でリーグ最多を誇っていた。

 だが、岡田彰布はこの「グリーンライト」に否定的である。「選手任せ」を嫌い、同じ盗塁でも「ここぞ」という場面で決めてほしいと、ベンチから盗塁のサインを出す方針を示している。

 まだ2月半ば。練習試合で作戦面のサインは出していない。ただ、盗塁と「待て」は出ているようだ。カウント3ボール―0ストライクで「待て」が出たと見られる打席があった。

 19日のサムスン戦は記者席で見ていて、盗塁が出たのは2度だった。

 1つは7回裏1死一塁、打者・板山祐太郎がフルカウントになってのいわば自動スタート、ランエンドヒットだった。一塁走者の新人・森下翔太が走り、板山は右前へゴロで抜いて一、三塁をつくった。大量8点を呼ぶ作戦だった。

 それより注目したいのはもう1つの方である。6回裏1死一塁となり代走に熊谷敬宥が出た。初球、あっさり二盗を決めた。あっさりと書いた背景には準備がある。

 相手右投手はクイック投法ができず、直前の無死一塁でも投球タイムが1秒35~43(手もと計測)と遅かった。行く心構えができていたのだ。

 18日のDeNA戦でも代走・植田海が二盗を決めていた。この時は初球から盗塁サインは出ていなかったようだ。赤信号だった。相手投手・小園健太はタイムが1秒07~16と速い。だが2ストライク後、盗塁のサインが出ると――信号が青に変わると――あっさりと二盗を決めていた。

 盗塁といっても、基本は「行けたら行け」で「ジスボール」(次の球)ではない。それでもサインが出た途端に走れる点にすごみを見る。

 相手がサムスンということで韓国語で言うと、「ヌンチ」ではないか。「他人の気持ちをひそかにくみとる、細やかな心づかい」という意味だと、エラ・フランシス・サンダースの『翻訳できない世界のことば』(創元社)にある。

 監督は選手、選手は監督の思いをくみ取り、サインが出れば即座に実行する。サインに心が通えば強い。=敬称略=(編集委員)

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2023年2月20日のニュース