【内田雅也の追球】打順を下げても好機で巡ってくる佐藤輝の打席 得点圏打率とチーム連敗の「深い霧」

[ 2022年8月18日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2-4ヤクルト ( 2022年8月17日    神宮 )

<ヤ・神>6回、2ランを放った佐藤輝は村上の前を通り過ぎる(撮影・村上 大輔)
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 野球は団体競技で、チームが勝てば個人も救われる。逆もまた真である。阪神の佐藤輝明は15試合ぶりに本塁打を放ったが好機では凡退した。チームは敗れた。彼の心は晴れない。そんな顔で相手のヒーローインタビューが響く神宮から引き揚げていった。

 6回表無死一塁で放った17号2ランは見事な一撃だった。左腕・高橋奎二に見逃し、空振りで2ストライクと追い込まれ2ボールを見極めた。4球連続変化球の直後、外角速球を反対側、左翼席へライナーで運んだ。

 本人は試合中、広報を通じてのコメントで「前の打席で悔しい思いをしていたので打つことができて良かったです」と話している。この悔しさは試合後も残っていよう。

 3回表2死満塁での凡退である。1ボールから高め速球に振り遅れ、遊飛を上げていた。しかも、その裏、村上宗隆に先制3ランを浴びたため、好対照を描いていた。

 佐藤輝の得点圏打率・218はセ・リーグ規定打席到達者で下から3番目(26位)。村上は1位の・341=成績は16日現在=。この明暗が際立つ試合展開だった。

 今季長く4番を務めていた佐藤輝だが、打撃不振で前日16日から6番に下がっていた。それでも好機で打席が巡ってくる。そういうものだ。「打順を下げた打者に好機が巡る」はプロ野球のほとんど定説と言える。

 しかも今季、佐藤輝は得点圏での打席がとりわけ多い。あるツイートで見かけたが、打席に立った際の得点圏走者数が12球団最多である。

 好機で力むのか、重圧を受けるのか。スポーツ心理学の研究が進む大リーグでも、なぜ好機に強い打者と弱い打者が存在するのか、いまだに解明されていない。得点圏打率はシーズンや月ごとでランダムに変化する。

 野球統計学の草分け的存在、ビル・ジェームズも<クラッチ・ヒッティング(大事な場面で打てる打撃)なるものが果たして存在するのか>と書いている。エッセーのタイトルは『霧を甘く見るな』。統計では計れないほど野球の「霧」は深いことを意味している。

 季節は七十二候の「蒙霧升降(ふかききりまとう)」。深い霧がまとわりつくように立ち込めるころだ。阪神はあの開幕時以来の8連敗。出口は霧に包まれて見えないでいる。=敬称略=
(編集委員)

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2022年8月18日のニュース