低予算・レイズがWシリーズまで勝ち残れた理由

[ 2020年10月20日 08:30 ]

ワールドシリーズ進出を決め喜ぶ筒香らレイズの選手たち(AP)
Photo By AP

 大リーグのポストシーズンもいよいよ大詰め。20日(日本時間21日)から始まるワールドシリーズはドジャースとレイズの対戦に決まった。どちらも今季は前評判が高かった。「金満チーム」対「低予算チーム」という意味でも興味深いカードだ。

 レイズが総年俸約6900万ドル(約72億4500万円)で30チーム中28位。特に野手には全国区の看板選手はいなくとも、費用対効果を考えれば驚異的までの全体の層の厚さと、ケビン・キャッシュ監督の機転を効かせた起用法で勝ち抜いてきた。

 先発メンバーは毎日、相手チーム、先発投手次第で猫の目のように入れ替わる。近年、野手のプラトーン採用は浸透したが、レイズほど極端なチームは珍しい。9月11日のレッドソックス戦では史上初めて9人全員が左打者という打線を組んだ。先発投手も相手打線の3巡目まで投げさせることはまれだ。アストロズとの優勝決定シリーズ第7戦では6回途中まで2安打無失点に抑えていたモートンをわずか66球で交代。以降は継投策で逃げ切ったのも象徴的だった。

 今季は筒香が加入したおかげでレイズ戦を見る機会は多かったが、これほど目まぐるしい選手起用でよくチーム一丸となり続けられるものだと感心させられた。「臨機応変な起用法」と口で言うのは簡単。選手も感情のある人間なのだから、シーズンの中でこういった戦術で不満を感じる選手が出ても不思議はなさそうにも思えたからだ。

 「フロント、スカウト、選手育成陣、そして選手は、このチームの強みに感謝してきてくれた。多くのスーパースターが軸になったチームではない。私たちは限られた機会を生かし、優位なマッチアップを見つけていくチームなんだ」

 キャッシュ監督のそんな言葉通り、今季のレイズは非常に意思統一が図れている印象があった。ロッカールームに入れない今年はチームの雰囲気を知るのは難しいものの、少なくとも遠くから見ている限り、試合中、レイズほどダッグアウトからよく声が出るチームは他にない。筒香も「首脳陣やチームメートから毎日いろんな声をかけていただいている」と感謝を述べていた。他の選手たちの言葉を聞いても、チームメート同士の気遣いや、監督への信頼は確かに感じられる。

 「私たちは性格面も考慮して選手を獲得している」とキャッシュ監督が説明する通り、入団前後から対話を続けての意識統一が徹底されているのだろう。もともとエリート選手が少ないことによるエゴのなさに加え、データによる裏付け、過去2年連続でチームを90勝以上に導いたキャッシュ監督への信頼に加え、スモールマーケットチームの一員としての意地も選手間にはあるのかもしれない。チーム最古参のキーアマイヤーがワールドシリーズ進出決定後に述べていた、こんな言葉も印象的だった。

 「低予算であることを恥ずかしく思ったりしないし、楽しんでいるよ。僕たちはスモールマーケットチームであり、最も人気があるチームでもない。ただ、小さなことを継続してやれば、良いことが起こる。今季にそれを示すことができて、その一部になれたのはビューティフルなことだった」

 ビッグネームがいなくとも、貴重な勝利を挙げ続けることで、好循環が生まれる。今ポストシーズンでは既に地区シリーズで総年棒1位のヤンキース(約2億4000万ドル=約252億円)、リーグ優勝決定シリーズでは同3位のアストロズ(約2億1000万ドル=約220億5000万円)を下してきたレイズが、ワールドシリーズでは同2位のドジャース(約2億2000万ドル=約231億円)と対戦。無名集団がトップ3を総なめとなれば快挙といえる。パンデミックのおかげで世界中のさまざまなビジネスが苦しんでいる2020年。レイズのようなチームが頂点に立てば、例年以上に多くの人々の共感を得るかもしれない。(杉浦大介通信員)

続きを表示

2020年10月20日のニュース