【内田雅也の追球】感情のコントロール ピンチでの不動心 阪神が奪った併殺93個はリーグ最多

[ 2020年10月20日 07:00 ]

セ・リーグ   阪神1―1ヤクルト ( 2020年10月19日    甲子園 )

6回2死一、二塁、山崎のゴロで併殺を奪う板山(右)と小幡の二遊間(撮影・大森 寛明)
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 勝因も敗因もない引き分けだが、阪神が負けなかったのは中盤のピンチで追加点を与えなかった守りが大きい。4、5、6回表と3イニング連続して併殺で切り抜けた。

 この3併殺を加え、今季、チームが奪った併殺数は93個となり、92個の中日を抜いてリーグ最多となった。チーム失策数がリーグ最多72個で拙守が課題だが、併殺はよく奪っている。昨年も試合数を上回る149個を奪い、リーグ最多だった。

 拙守の阪神がなぜ併殺を多く奪えるのだろうか。内野陣のがんばりは認めたうえ、ピンチでも冷静に低めに投げ、ゴロを打たせる投手陣を評価したい。

 4回表は1点先取されなお1死満塁。先発ジョー・ガンケルは西浦直亨を内角シュート(ツーシーム)、外角カッターで追い込み、真ん中低めフォーク(スプリッター)でゴロを打たせた。やや三塁線寄りに転がり、処理した大山悠輔は三塁を踏み、一塁送球して併殺を完成させた。前進守備で三塁を踏むには後退する形になるが、本塁や二塁送球では恐らく一塁セーフ、2点目を失っていた。好判断だった。

 5回表は1死からその大山が三ゴロを失策。難しいバウンドで前に出て後逸した。直後、ガンケルが青木宣親を投ゴロ併殺に仕留めた。打順は上位で嫌なムードを断ち切ったのだ。

 何度も書くが野球は失敗のスポーツである。その失敗にどう向き合うのか、選手の心構えが問われる。

 <野手がエラーしたとしても、それを責めるような気持ちはすぐに捨て去り――>と、今季限りでの引退が明らかになった岩隈久志(巨人)が大リーグ・マリナーズ時代の2013年に出した著書に書いている。

 味方の失策が出た時は「このピンチは僕がカバーしなければいけない」「このランナーをゲッツーに取ろう」と切り替えるそうだ。ガンケルは表情を変えず、気持ちの切り替えができていた。
 江夏豊も阪神時代、幾度も味方の拙守に泣いたが<バックの守りを気にしても仕方ない>と著書『エースの資格』(PHP新書)で不動心を説く。現役時代二塁手、後に監督やGMを務めた中村勝広(故人)は自身登板時の巨人戦での失策を何度も話題にしたそうだ。<エラーをめぐる思い出がないような間柄では寂しい>と記している。

 6回表は岩貞祐太が1死から連続四球。いわば自分のミスで背負ったピンチにもあわてず、二ゴロ併殺で切り抜けた。

 岩隈には<野球はミスによって成り立っている>と失敗を認める姿勢があった。

 先の著書のタイトルは『感情をコントロールする技術』(ワニブックス)。他にも<「自分でコントロールできないこと」を考え込んでも仕方ない><最悪から立ち直るためには「ひとつずつ」を意識する><「実力以上のものを出す必要はない」と思えば緊張はなくなる>……といった考え方のコツ、極意のような姿勢が記されている。

 心を安定させる考え方は投球のコントロールと同様に「技術」なのだろう。=敬称略=(編集委員)

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