ロッテ・和田、陸上部出身“異色の新スピードスター”盗塁の3つの極意

[ 2020年7月7日 06:55 ]

試合前、一、二塁間でスタート練習するロッテ・和田(撮影・長久保 豊)
Photo By スポニチ

 プロ3年目で育成から支配下登録されたロッテ・和田康士朗外野手(21)が「代走のスペシャリスト」としてブレーク中だ。6月2日から行われた練習試合では12球団ダントツの7盗塁をマークし、開幕後も4盗塁に成功。井口資仁監督(45)も切り札に挙げる。埼玉・小川時代には陸上部に所属した「異色のスピードスター」の盗塁の極意に迫った。(横市 勇)

 【けん制の速さで変わるリード】常に限界を探る。開幕から15試合を消化し、和田は7試合に出場した。代走起用は5度で4盗塁。「けん制では絶対にアウトになれない」と力を込める。同点、または勝ち越しを狙った大事な代走として起用されるからだ。

 1メートル85の長身で足も長い。一塁走者としてならば、リードの歩数は5歩半をベースにする。「投手のけん制の速さを確認してリードの大きさを変える。ある程度取らないと盗塁を狙ってもセーフにならない。ギリギリのところを攻めるようにしています」。アンツーカーの広さは球場によって異なる。「ペイペイドームならば両足が芝から出たい。ZOZOマリンはアンツーカーが広いので片足ぐらい。リードは普通の人より少し大きいぐらいかな」と分析する。

 右投手よりも左投手の方がリードは大きいこともある。「(けん制の)タイム的には左投手の方が遅いので」。一般的に二盗を仕掛けるのが難しいとされるサウスポーにも、和田はリードからプレッシャーをかけられる。

 【日本ハム・西川に学んだ足の入れ替え】二盗成功の可否はスタートが大きく左右する。ポイントについて、和田は「どれだけ速く二塁方向に体を向けられるか。(蛇行しないように)ベースの正面に入って走る。あとは、なるべく起き上がらないことを意識しています」と挙げる。

 リードでは右足の先を二塁方向へ最初から向けている。そこから右足を引くようにして左足を出す。「西川さんの足の入れ替えが速い。昨年は、いろいろ試したけれど、これが一番うまくいった」。盗塁王3度の日本ハム・西川の動画を見て学んだ。

 和田が高校で陸上部に入ったことは有名だ。走り幅跳びが専門だったが、短距離の練習が生きる。「僕はスタートを切って、捕手に球が収まるぐらいに打者が打っていないか一度確認する。それまではずっと下を向いています」。上体が起き上がるのを抑えて、トップスピードに乗せる。その動作は「(陸上で学んだ)スタートした時の低い姿勢が生きているかもしれない」と説明する。異色の経歴を誇る和田だからこそ可能にしている。

 【尻が汚れないスライディング】成功の鍵は「尻を汚さない」だ。和田は二塁ベースを突き刺すようなスライディングを心掛ける。「なるべく強く、ベースに近くでと考えています」。時には、その勢い余って二塁を越えそうになるほどだ。

 50メートル5秒8で駆け抜ける俊足は「スライディングした時に尻に土がついていなければいいかな」とも言う。左利きらしく、スライディングも左足を伸ばして右足を畳む。「土がつくのは足だけ。尻に土がつくと摩擦で遅くなる。なるべくベースの近くで。(左足を)引きながら滑るのではなく、伸ばしてバンという感じ」と独自の理論を明かす。

 今年5月まで育成選手だったが、6月1日に支配下選手となり、6月2日から開幕まで行われた1軍の練習試合で12球団ダントツの7盗塁をマークした。「1位はうれしかったけれど、まだ自信はついてない。1軍はけん制も速いし、捕手もベースのギリギリに投げてくる」。目標は30盗塁だ。代走中心で、警戒される中でかいくぐる。「そんなに甘くないのは分かっていますけれど…」と話すが、盗塁数とともに自信も積み上げる。

 ≪井口監督も認める「終盤の切り札」≫現在チームは9勝6敗の2位。開幕から井口監督は「今年のうちは終盤に追い付くことができる」と繰り返す。その根拠が和田だ。接戦ならば、とっておきの切り札を代走で起用し盗塁で一気にチャンスをつくる。

 6月19日のソフトバンクとの開幕戦では、9回に和田の二盗から同点。同23日のオリックス戦では一塁走者・和田に警戒した相手バッテリーがミスを犯し、サヨナラ勝ち。一方で首位攻防となった楽天6連戦では和田を代走に送る展開に持ち込めず1勝5敗。指揮官は「(和田を代走で使う)チャンスもなかった」と悔しがった。

 2軍での2年間は18年が6盗塁(失敗7)19年は23盗塁(同8)。伊志嶺走塁兼打撃コーチ補佐は「経験を積めば盗塁王も獲れる。この先は自分次第」と成長を期待した。

 ◆和田 康士朗(わだ・こうしろう)1999年(平11)1月14日生まれ、埼玉県東松山市出身の21歳。小4から野球を始め、東松山北中では野球部。小川高時代は野球部には入らず都幾川倶楽部硬式野球団でプレー。卒業後はBC・富山に入団し、17年育成ドラフト1位でロッテ入団。今年6月1日に支配下登録された。豪快なスイングから愛称は「和ギータ」。1メートル85、77キロ。左投げ左打ち。

 【盗塁成功率7割超えズラリ…球界の「代走屋」列伝】
 ☆青木実(ヤクルト)558試合中236試合が代走出場。81年には34盗塁で盗塁王も半分の17盗塁を代走で出場した試合で記録。通算79盗塁(成功率.712)
 ☆藤瀬史朗(近鉄)79年の代走→25盗塁はプロ野球記録。通算117盗塁のうち105盗塁を代走でマーク。(成功率.807)
 ☆今井譲二(広島)通算263試合に出場しながら打席数はわずか31。主に代走で84、86年に2桁盗塁。通算62盗塁(成功率.747)
 ☆鈴木尚広(巨人)代走で131盗塁はプロ野球記録。通算228盗塁。成功率.829は200盗塁以上の巨人の選手で歴代1位。
 ☆周東佑京(ソフトバンク)育成出身。支配下登録された19年に代走で15盗塁。侍ジャパンにも選出された。通算25盗塁(成功率.833)

続きを表示

この記事のフォト

2020年7月7日のニュース