【猛虎最高の瞬間(6)】「怪腕」ドリス「剛腕」藤浪――規格外の160キロ突破

[ 2020年5月31日 08:30 ]

16年9月14日、甲子園の広島戦で球団日本人最速の160キロを叩き出した阪神・藤浪
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 創刊72年目のスポニチ紙面を掘り起こし、偉大な選手たちが阪神のユニホームで打ち立てた「猛虎最高記録」と、その瞬間に迫る連載の第6回。ラファエル・ドリス投手(当時29)が球団最速161キロを計測した2017年8月29日と、藤浪晋太郎投手(当時22)が球団日本人最速160キロを出した2016年9月14日にスポットライトを当てる。

 【2017年8月29日】ヤクルト相手に甲子園で3―0の快勝劇を演じた夜だった。翌日付大阪版2面には、陽気なドミニカンの偉業が記されていた。

 9回1死無走者。ラファエル・ドリスは2番・山崎晃太朗に投じた4球目で、球団史にその名を刻んだ。内角へのボール球が叩き出した球速は161キロ。球団史上最速で、日本球界でも歴代3位タイの球速を叩き出した。だが周囲の驚きの声とは対照的に本人は「米国では102マイル(約163キロ)の球を投げたことがあるから。日本では初めてかな」。前年シーズン中に受けた右肘手術の影響を感じさせない剛球が「猛虎最高記録」を生み出した。長身からアーム式マシンのように投げ下ろす投球スタイルと、不安定な制球力、守備力で虎党の記憶に残った怪腕。19年限りで退団し、今はブルージェイズに在籍している。

 【2016年9月14日】ドリスの偉業からさかのぼること、350日前。球団史上初の160キロを叩き出した男がいた。藤浪晋太郎だ。チームはその日の試合に敗れたが、翌日の大阪版は当然、1面で大台到達を報じた。

 甲子園の広島戦。先発・藤浪は初回1死満塁、打席に5番・鈴木誠也を迎えてギアを上げた。初球から自己最速更新の159キロを投じると、外角低めに大きく外れた3球目で160キロを計測。球速表示に、4万6341人がどよめいた。その時点の球団史上最速であり、今も日本人投手では「猛虎最高」の球速を出した瞬間だった。

 「良い投手」ではなく、「勝てる投手」を目指した大阪桐蔭高時代に球速への意識を捨て、球質を追い求めてきた。だから日本人ではNPB史上3人目の大台突破も意に介さなかった。7回途中3失点でチームを勝利に導けず、「ガンが出たから抑えられるわけでもない。球速より球質」と笑顔はなかった。

 同年は入団から3年続けた2桁勝利に届かず、7勝11敗、防御率3・25。以降は長いスランプに陥り、今も復活ロードの途上だ。今年は新型コロナウイルス感染、練習遅刻による2軍降格などで物議をかもすが、その反響の大きさは期待の裏返しとも言える。「猛虎最高記録」を更新するポテンシャルを秘めた剛腕には、前途がある。(惟任 貴信)

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