【内田雅也の追球】映画のような台風の夜――諦めず、あがいた阪神に輝いた勝利

[ 2019年10月12日 08:00 ]

セ・CSファイナルS第3戦   阪神7―6巨人 ( 2019年10月11日    東京ドーム )

<セCSファイナル巨・神3>3回途中降板する青柳(右端)=撮影・島崎忠彦
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 映画『海よりもまだ深く』(監督・是枝裕和)がテレビ地上波で初放送された。むろん、東京ドームで取材中だったため、見てはいない。公開された2016年6月、出張先の仙台で見たのを思い出す。

 離婚した夫婦と息子の元家族が台風の夜、父親実家のアパートで一夜を過ごす羽目になる。

 父親の良多(阿部寛)は作家なのだが、鳴かず飛ばずで、信用調査会社に勤めて生計を立てている。11歳の一人息子を嵐の夜中、公園に誘う。良多が子どものころ、父親としたように、滑り台の下でお菓子を食べる。

 少年野球チームに入った息子に「将来何になるんだ?」と問うと「公務員」。「プロ野球選手じゃないのか」と返すと、「なれっこないよ」と素っ気ない。

 「パパはなりたいものになれた?」と聞かれ、言葉に詰まる。「パパはまだ……なれてない」。そして言う。「でも、大切なのは、そうなりたいと思う気持ちなんだよ」

 そうかもしれない。多くの人は少年時代に描いた夢を実現できず、それでも懸命に生きている。

 今の阪神である。確かに思い描くチーム力には達していない。それでも懸命に戦っている。監督・矢野燿大とともに優勝の夢を追っている。

 映画のように、大型台風が近づく夜だった。崖っぷちに追い詰められた一戦は、序盤から失敗が相次いだ。3回裏は無死一、二塁での投ゴロを青柳晃洋が弾き、併殺を逃した。さらに岡本和真の大飛球(二塁打)をさく越え本塁打と勘違いした丸佳浩を三本間で挟撃しながら、アウトにし損ねた。

 攻撃でも「あと一打」が出ない。3回表2死満塁は糸原健斗が三邪飛、4回表2死満塁は北條史也が三振を喫した。

 だが「そうなりたいと思う気持ち」が通じる。同じ満塁機で取り返すのである。5回表無死満塁で高山俊が右前適時打した。2死後の満塁で近本光司が右翼線三塁打を放った。

 前半は6―6の乱戦だが後半は両軍ゼロ行進と膠着(こうちゃく)していた。9回表、悩み続けた大山悠輔が放った飛球が右中間スタンドに飛び込んだ。打撃不振を極め、前4打席も打てる雰囲気はなかった。7回表の今シリーズ初安打もボテボテのゴロだった。奇跡のような決勝弾だった。

 休日返上の練習をしたことも、夜の素振りもしていた。いや、もっと見えない努力もしていたことだろう。

 映画パンフレットの解説に<愛(いと)しきは「諦め」ではなく「あがき」であることだろう>とあった。大山も、チームも、思い続けるだけではなかった。諦めず、あがいていたのである。=敬称略=(編集委員)

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