【内田雅也の追球】「他力」もまた人生――自力CS復活の阪神

[ 2019年9月28日 08:00 ]

シーズン2位が確定し和田監督続投を報じる14年10月7日付本紙
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 マツダスタジアムのナイター経過を遠く離れて見守る。広島の勝敗により――大げさに書けば――生きるか死ぬかが決まる。阪神はそんな経験を5年前にしている。

 2014年10月6日の広島―巨人戦。阪神は1日でレギュラーシーズン全日程を終えていた。優勝はすでに巨人が決めている。この試合、広島が勝てば2位、負ければ阪神が2位だった。

 それだけではない。阪神は就任3年目だった和田豊の処遇をこの一戦に委ねていた。8月末から監督問題が浮上し、本社・球団で意見が揺れていた。収拾がつかず、9月30日の上層部の会談で「2位なら続投」と結論を出していたのだ。

 結果は広島が敗れ、阪神の2位が確定。和田続投が決まった。10日、当時オーナーの坂井信也が練習前に甲子園球場を訪れて続投要請を行い、和田は受諾した。

 監督の処遇を順位、それも他球団の勝敗に委ねるのか、といった批判はあろう。それだけ、続投にも交代にも決定的要素がなかった。

 ただし、時に「他力」は大きな力となる。断っておくが、ここで言う「他力」とは、単に「自分以外のものの力」といった意味で仏教用語ではない。

 巨人を追われ、西鉄(現西武)、大洋(現DeNA)を優勝に導いた名将、三原脩は常々「人生は他動的」と語っていた。著書『風雲の軌跡』(ベースボール・マガジン社)に<人生の岐路で(中略)他動的なプッシュで折り曲げられていった>と記している。

 また、プロ棋士・羽生善治は「将棋で勝つには“他力”が必要なんです」と語っている。『教養としての将棋』(講談社現代新書)で哲学者・梅原猛との対談にあった。「考えに考え抜いたつもりでも、その先に考えもしなかった局面が現れるということがしばしばある」

 自分だけではどうすることもできないのだ。人生も、将棋も、そして野球も同じである。

 そして、この夜、広島は中日に敗れた。阪神はクライマックスシリーズ(CS)進出の可能性が残った。今度は自力で残り3戦全勝すればいい。

 西鉄監督時代の1958(昭和33)年、日本シリーズで巨人に3連敗した際、三原が残した名言は「まだ、首の皮一枚つながっている」だった。以後、4連勝で日本一を奪ったのは奇跡と呼ばれた。

 阪神もまた、「他力」を受けいれ、前に進みたい。

 あの5年前、腹をくくっていた和田は生き延びたばかりか、CSも勝ち抜き、日本シリーズの晴れ舞台を踏んでいる。

 今年は何が起きるだろうか。それは誰にも分からない。運命的な他力も働いている。 =敬称略=(編集委員)

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