【内田雅也の追球】不運と不調の打球たち――早期降板の阪神・青柳とBABIP

[ 2019年7月7日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神8―5広島 ( 2019年7月6日    甲子園 )

4回途中降板する青柳(中央)(撮影・大森 寛明)  
Photo By スポニチ

 セイバーメトリクスにBABIP(バビップ)という指標がある。本塁打を除くグラウンド内に飛んだ打球が安打になった割合を示す。(安打-本塁打)÷(打数-奪三振-本塁打+犠飛)で計算する。「インプレー打率」などと訳される。

 1990年、米国の野球統計家ロバート“ボロス”マクラッケンが提唱した。「投手は打球の結果を制御できない」との仮説からデータを集めて検証。「本塁打を除く打球がアウトになるか否かは投手の責任ではない」と結論づけた。

 ゴロやフライがヒットになるか、アウトになるかは運によるところが大きいということだ。もちろん、守備位置や守備力にも影響を受ける。

 「怪物」江川卓が引退後「ゴロが内野手の間を抜け、フライが外野手の前に落ちてヒットになるとがっくりくる」と話していたのを覚えている。自身では打ち取ったと思った打球だったわけだ。

 ならば、この夜、4回途中で降板した阪神先発の青柳晃洋はどうか。飛んだ場所でアウトになってもおかしくない打球が相次いで安打となった。

 2回表。先頭の鈴木誠也以下に浴びた3連打はいずれもゴロだった。それが二遊間、一、二塁間、三遊間と立て続けに外野に抜ける安打となった。これで1点を失った。

 3回表も2死一塁から鈴木のゴロが三遊間を抜ける左前打となって一、三塁。松山竜平の中前に上がった飛球は近本光司のダイブ及ばず、ポテン二塁打となり、2者が還った。

 打球数が増えればBABIP(投手なら被BABIP)はおおむね3割に収束すると言われる。この夜、青柳の被BABIPは7÷16で4割3分8厘。この高率は不運の度合いとも言える。

 一方で打者2巡目の打球にはライナーが出てきた。3回表の西川龍馬右前打、安部友裕左直、そして4回表の田中広輔中前打だ。監督・矢野燿大は増えてきたライナー打球で不調と判断し、だから田中の安打で青柳交代に踏み切ったのだろう。

 打球はもちろん野球には運・不運がつきまとう。ただ、阪神にも在籍した伊良部秀輝(2011年他界)は逆に「きちんとしたフォームで投げていれば、いい当たりをされても野手の守っているところにボールは行く」と語っていたそうだ。代理人だった団野村が『伊良部秀輝~野球を愛しすぎた男の真実』(PHP新書)に書いていた。このような姿勢こそが幸運と、そして成長を呼ぶのだろう。

 以前も紹介した映画『2番目のキス』で大リーグ・レッドソックスの熱狂的なファン、数学教師ベンが恋人リンジーに野球の魅力を伝えるなかで「野球で最高なのはインチキできないこと。世の中は運が通用する」と語っている。そして「運のいい日はあっても、運だけの選手はいない」。
 なるほど、逆もまた真なりで、野球の本質を突いている。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

2019年7月7日のニュース