城東に13人目の“戦士” 人生で初めてバット持った女子マネジャー・永野悠菜さんの挑戦

[ 2023年1月26日 06:00 ]

外野ノックを打つ城東・永野悠菜マネジャー(撮影・河合 洋介)
Photo By スポニチ

 【選抜候補校紹介 舞い上がる春(中)】21世紀枠の四国地区候補校に選出された城東(徳島)は、選手が12人しかいない。その環境を補おうと、選手が裏方役も兼務しながら練習に励んでいる。

 昨年4月某日。ノッカー役がつぶやいた。「今日、1球もノックを受けられなかったな…」。この何げない一言が女子マネジャー・永野悠菜さん(2年)を変えることになる。「私がノックを打てれば…」。中学では吹奏楽部、本格的な運動経験すらなかった女子高生の挑戦が始まった。

 城東は県内屈指の進学校でもある。まず、午前6時から教室で1時間の自主学習をすることにした。そして7時からはグラウンドに出て、ノックを打つ練習だ。バットは初めて握った。前に飛ばすどころか、球が当たらない。両手が血で赤く染まっても振り続けた。

 諦めなかったのは、ひそかな目標があったから。「お世話になった3年生が引退するまでに打ってあげたい」。そして夏の県大会が直前に迫った日のことだった。練習後、3年生が新治良佑監督に願い出た。「マネジャーのノックを受けたいです」。こうして初めてのノックが始まった。球は正面に飛ばず、先輩を大きく左右に振らせてしまう。それでも3年生は、笑顔で何度も頭から飛び込んだ。

 今では連日ノッカー役を務めるまでに腕を上げた。昨年末に部内で開催したクリスマスパーティーでは森本凱斗主将(2年)から新品のノックバットを受け取った。部員たちが自腹でお金を出し合ってクリスマスプレゼントとして購入し、感謝を伝えてくれたのだ。

 その森本主将とマネジャーは、幼稚園からの幼なじみ。高校入学直後、永野さんに森本から一通のLINEが届いた。「野球部に入ってくれない?甲子園に連れて行くから」。その約束がかなうと信じて、今日もノックを打つ。 (河合 洋介)

 ▽城東高校 徳島県徳島市中徳島町にある公立校。1902年創立。前身は徳島県立高等女学校。県内有数の進学校で、全国大会出場レベルの部活動も多数存在する文武両道の校風が特徴。硬式野球部は96年創部。主な卒業生に瀬戸内寂聴さん(小説家)、竹宮恵子さん(漫画家)。

《広がる女子部員の活動範囲》
 女子部員の活動について、甲子園では昨夏から試合前ノック時のボール渡しや練習補助、試合中のボールパーソンを担うことが認められるようになった。昨夏の地方大会では、厚木東(神奈川)の井上紗絵マネジャーが試合前のノッカー役を務めた例もある。15年夏の甲子園練習では大分の女子マネジャーが練習補助を制止されて議論を呼んだこともあったが、活動範囲は徐々に広がってきている。

続きを表示

この記事のフォト

2023年1月26日のニュース