【内田雅也の追球】阪神の執念“最悪の併殺打”生かした逆転劇

[ 2016年8月5日 08:20 ]

<D・神>9回無死一塁、ゴメスは中前打を放つ

セ・リーグ 阪神7―5DeNA

(8月4日 横浜)
 阪神9回表の同点、延長10回表の勝ち越しは6回表の絶好機を逸した反省が生かされていた。

 6回表は3―3同点で無死満塁だった。マウロ・ゴメスは加賀繁の初球、下手投げ特有の「フリスビー・スライダー」をバットの芯で捉えたが三塁正面のゴロ。5―2―3とわたる最悪の併殺打だった。残った2死二、三塁で代打・緒方凌介が右飛、好機は去った。

 以前にも書いたが、阪急や近鉄を球団初優勝に導いた西本幸雄(故人)が無死満塁の難しさを語っていた。「最初の打者が肝心だ。無死で走者を還せれば大量点が望めるが、倒れると徐々に重圧がのしかかる」

 近鉄監督時代の1979年日本シリーズ最終第7戦(大阪)で、9回裏無死満塁を逃し、日本一を逃した西本である。あの「江夏の21球」の敗将の言葉は重い。

 肝心の最初の打者への助言が「サードゴロは打つな」だ。右打者に対して言う。強引な引っ張りを戒め、犠飛が上がりやすいセンター返しをわかりやすく説いた。

 この伝でいくと、阪神もゴメスも間違っていた。もちろん、ゴメスの一打は強いゴロだったが、強引な打撃姿勢が失敗につながった。

 だから、打撃コーチ・片岡篤史は「あそこはゴメスが決めないといけなかった」と話した。「フライを上げないといけない。本人も分かっています」。ゴメスも失敗の原因を分かっていた。

 この反省が次の好機で生きたのだ。クローザー山崎康晃から2点差を追いついた9回表、放った安打3本はすべてセンター方向、犠飛は反対方向だった。前の打席で併殺打だったゴメスは無死一塁から中前打で好機を広げた。狩野恵輔が代打で初球から打ちにいった遊撃右への適時打、江越大賀が右方向に打ち上げた同点犠飛もある。

 10回表も押し出し四球で勝ち越し、狩野が再び中前適時打している。この回はまた、4回裏に失点につながる失策を犯した北條史也が先頭で二塁打し、勝ち越し決勝の本塁を踏んだ。前夜、適時失策していた荒木郁也が四球でつないだ。

 野球は人間的で、失敗のスポーツである。失敗を取り返す機会が訪れるのも人生に似る。

 片岡は興奮ぎみに「執念」と繰り返した。クライマックスシリーズ(CS)進出争いの当面の敵で「マスト・ウィン・ゲーム」を取り、猛虎は生き残った。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

続きを表示

2016年8月5日のニュース