時を止めた?高校野球・地方大会決勝戦「ちょっと待った!」事件簿

[ 2016年8月5日 09:00 ]

 全国各地で続々と、甲子園出場決定の声が届く。歓喜で沸く球児たちの横では、夢の舞台にあと一歩届かずにむせび泣く球児たち。甲子園で負けるよりも、地方大会決勝で負ける方がより残酷ともいえる。

 どんな戦いよりも1点が重い地方大会決勝戦。だからなのか、過去の歴史を紐解くと、際どい判定への抗議やルール解釈を巡るトラブルで、試合が中断するケースも数多い。そんな、地方大会決勝で起こった信じられないハプニング集をいくつかピックアップしてみたい。

◎1926年・北関東大会決勝:伝説の「宇都宮事件」

 今年、プロ野球で物議を醸し続けるコリジョン・ルール。そんな本塁上の衝突が生んだ中断として有名なのが大正末期、1926年に起きた「宇都宮事件」だ。

 宇都宮中(現・宇都宮高)と前橋中(現・前橋高)が全国大会の出場をかけて決勝で対戦。試合は前橋中が5対1とリードし、4点を追いかける宇都宮中の7回攻撃中に事件は起こった。

 2点を返し、3対5と2点差に詰め寄った宇都宮中は、なおも1死満塁と逆転のチャンス。ところが、次の打者は三塁ゴロ。三塁手はホームゲッツーを狙った。

 この場面、フォースアウトでいいはずが、なぜか前橋中の捕手はタッチをしようと本塁上でランナーと交錯してしまう。判定はアウト。だが、宇都宮中は「捕手が落球している」と猛抗議。球審がこの抗議をはねつけると、今度は興奮した観客が柵を破ってグラウンドに乱入してしまう。

 身の危険を感じた審判団は30分間の試合中断を宣言。騒ぎが収まるまでグラウンドの外に避難した。そして30分後……。グラウンドに戻ったところを狙われ、観客に襲われてしまう。もう、車で会場を脱出するほかなかった。選手たちもグラウンド外に逃げ、騒ぎは警察官が出動するまで収まらなかった。

 宇都宮中のメンバーはこの乱闘騒ぎには関与せず、騒いでいたのは観客のみ。ただ、騒動の発端は審判の判定に従わなかったことが原因、と宇都宮中が謝罪。試合の棄権を申し出て、前橋中の優勝が決定した。

 警官に守られながら、夕方の汽車で帰ることになった前橋中ナイン。ただ、騒動のために球場での優勝旗授与式が行えなかったため、前橋に帰る途中の小山駅で優勝旗が渡されたという。

◎2004年・山梨大会決勝:臨時代走に代走を送ったらどうなるの!?

 春夏連続での甲子園出場を目指した甲府工と、前年優勝校の東海大甲府。優勝候補同士の戦いとなった2004年の山梨大会決勝。事件は6回裏、1対2と1点を追いかける東海大甲府の攻撃中に起きた。

 1死走者なしで、6番打者の田中稔也が死球で出塁。治療のため東海大甲府ベンチは「臨時代走」を送った。臨時代走は、ケガの治療のために一時的に他の選手(該当打者からバッテリーを除いたもっとも遠い打順の選手)を代走として送ることができる、高校野球ならではのルールだ。この場面では、5番打者の町田慶太が臨時代走となる。

 犠打で町田が二塁へ進んだところで、俊足の宮地勝史を代走に送った。つまり、「臨時代走への代走」。結局、この作戦は実らず、東海大甲府は無得点に終わる。

 この場合、本来のルールでは、元々のランナーである田中が退かなければならない。だが、7回表の守りについたのは、治療を終えた田中と「臨時代走への代走」として出場した宮地。「臨時代走」の5番・町田が退く形となった。

 これに甲府工が15分に渡る猛抗議。審判団は、東海大甲府から「この交代で大丈夫か?」と確認された上で認めていたため、引くに引けず、抗議は受け付けなかった。だが、今ひとつ自信がなかったのか、高野連に確認の問い合わせを入れた。

 試合は1対2のまま、8回裏、東海大甲府の攻撃。打席には先ほど死球を受けた田中。この場面で高野連本部から連絡が入り、「6回裏と7回表の選手交代は審判団が間違っていた」ことが判明する。

 試合は中断され、審判団と両校部長がバックネット裏の本部席に集合。対応を協議するための中断時間は40分にも及んだ。

 協議の結果、本来退いているはずの田中が出場するわけにはいかないと、次の7番打者から試合再開。この回の東海大甲府は無得点に終わったが、9回裏に同点に追いつくと、延長11回裏にサヨナラ勝利。打順変更や選手交代によって、勝負のアヤが変わった可能性もあるだけに、甲府工としては納得のいかない敗戦となってしまった。

 そして、歴史は繰り返される。今夏の岡山大会決勝での自打球から始まった創志学園の大逆転劇は記憶に新しい。49試合もあれば、信じられない展開が1つや2つ起こるのは当然なのかもしれない。敗北を受け入れなくてはならない高校生には酷だが、これが多くのファンの心を惹く高校野球の魅力なのだろう。(『週刊野球太郎』編集部)

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