桃田 完全復活へ胃袋から改革「おいしい食トレ」で心も体もベストな状態に

[ 2021年7月18日 05:30 ]

おいしい食トレで完全復活したい桃田
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 【メダル候補の心技体】バドミントン男子シングルスで金メダルを狙う桃田賢斗(26=NTT東日本)には、味覚にも肉体にも訴える“おいしい”食事改革があった。昨年4月から管理栄養士の吉村俊亮さん(33)らがサポートに入り、朝昼晩3食の食事を提供している。ストレスのない食事で必要なエネルギーを摂取することで練習のパフォーマンス向上に成功。五輪での完全復活へ、胃袋からも準備が進んでいた。

 肉体の内側から、桃田は進化を遂げていた。昨年12月の全日本総合選手権。不慮の交通事故から11カ月ぶりの復帰戦を優勝で飾った。当時の段階で体重は3キロほど減少した中で筋肉量は増大。しぶといラリー戦から、一発で仕留められる攻撃型へ。ベールを脱いだシャープな肉体は、東京五輪に向けての取り組みの成果だった。

 昨年3月、交通事故による右目眼窩(がんか)底骨折の手術を経て、練習を再開。競技力向上に生かせる食事に興味を持っていた桃田はサッカー・ギリシャ1部PAOKのMF香川真司に同行していた管理栄養士の吉村さんと出会った。桃田は「オリンピックに向けてサポートしてもらいたい」と要望し、翌4月から週6日、吉村さんら複数人による本格的なサポートが始まった。

 桃田は練習の虫だ。実戦復帰を目指して朝から晩までラケットを振り肉体をいじめ続ける。「午前中だけで終わりかと思ったら、一日中ずっとやっていた」と吉村さん。桃田やトレーナーと練習予定や内容、練習中に感じたことなどを共有し、献立を立て、最適な栄養バランスの食事を提供してきた。

 桃田が1日に食事で摂取するエネルギーの目安は、1日約3500キロカロリー。サポート前の朝食ではサンドイッチ、野菜ジュース1本で400キロカロリー前後だったが、サポート後は朝食だけで900キロカロリーほど取る。昼食も以前から倍増して1000キロカロリーほどになった。献立の中に、鉄分を工夫して入れることも心掛ける。消耗の激しい中で頭脳戦を繰り広げるバドミントンは鉄分不足による貧血状態で、動体視力が低下する。練習から冷静な判断力を維持することにつながるからだ。

 ただ、一般的な“食トレ”とひと味違うのが桃田流だ。吉村さんら提供側が心掛けるのは「何よりもおいしいこと」。バドミントンにより集中し、パフォーマンスを安定させることが何よりも重要。練習後にトマトジュースを飲むほどのトマト好きだった桃田には、トマト類で味付けした特製ハヤシライスを提供。「こんなにおいしいハヤシライス食べたことない」と舌鼓を打ったという。

 パクチーなど苦手なものは入れずに、提供側が目指すのは味覚にも訴える献立だ。「食事がトレーニングという感覚ではなく、日々の楽しみの感覚のままでいてもらえているのが凄くいい」と吉村さん。エネルギー補給や疲労回復だけでなく、ストレス軽減にもつながっている。

 直近の今年3月の全英オープンでは準々決勝で敗れたが、桃田はポジティブな敗戦と受け入れた。あれから4カ月。自らの技を、肉体をさらに磨いた根幹には、徹底した食事改革があった。「しっかり食事でエネルギーを取り、食事で疲労回復できる。栄養管理してもらっているのは本当に大きい」と桃田。心と技、そして理想の体を手に入れた桃田の勝負が、いよいよ始まる。

 ≪感謝の思い胸に≫桃田の心は整っている。東日本大震災や違法賭博問題、交通事故によりお世話になった人々への恩返しのために金メダルを獲ると決めている。自らの全ての行いが結果につながると信じており「会場のゴミ拾いやトイレのスリッパを並べたり。一つ良いことをすると自分に返ってくる」と語る。東京五輪は使用するラケットとシューズに「感謝」の2文字を入れてコートに立つ。

 ≪巧みな技 自慢の相棒から≫トップランカーとしての巧みな「技」は、自慢の相棒から生まれる。桃田が使用するラケットはヨネックス社の「ASTROX(アストロクス)99」。シャトルとのインパクト時の接触時間が従来から約2倍の0・001秒ほど増え、相手の出方に応じて瞬時の打ち分けが可能になったという。桃田のラケットを担当するヨネックス社の山川隆弘さんは「このラケットで悔いのない試合をしてほしい」と語った。

 ◇桃田 賢斗(ももた・けんと)1994年(平6)9月1日生まれ、香川県三豊市出身の26歳。7歳で競技を始め、福島・富岡一中―富岡高(現ふたば未来学園中、高)から13年にNTT東日本入社。12年世界ジュニア選手権優勝。18、19年世界選手権で日本勢初の2連覇。19年にワールドツアー11勝を挙げ、ギネス記録に認定。世界ランキング1位。1メートル75、72キロ。左利き。

 ≪男子8強の壁打ち破れ≫バドミントンほど、日本のメダルへの期待が右肩上がりで高まっている競技はないだろう。92年バルセロナ大会で正式競技となってから、中国が12年ロンドン大会で男女単複と混合の全5種目を完全制覇するなど圧倒。インドネシア、韓国、デンマーク、マレーシアが続いている。

 日本は女子が60~80年代に国別対抗戦ユーバー杯で5度優勝と黄金期を築いたが五輪に登場した頃には覇権を失っていた。特に中韓勢には歯が立たず。男女全種目を合わせ04年アテネ大会まで15戦全敗を喫していた。

 風向きを変えたのは、08年北京大会女子ダブルス4位の「スエマエ」ペアの快挙だ。末綱聡子・前田美順組が準々決勝で、連覇を狙った中国ペアを破る大金星。ロンドンで藤井瑞希・垣岩令佳組の銀、16年リオデジャネイロ大会で高橋礼華・松友美佐紀組の金、奥原希望の女子シングルス銅という躍進につながった。全体でロンドンまで10戦全敗だった対韓国勢は、リオで2勝1敗。対インドネシア、マレーシアもそれまでの計1勝9敗からリオで4戦全勝と、強豪国への苦手意識はほぼ払しょくした。

 女子が最近2大会で金銀銅メダルをそろえた一方で、男子は単複とも8強どまり。優勝候補として臨む桃田が壁を打ち破り、日本が五輪男女の実績でも強豪の仲間入りを狙う。

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