テビとアタ 牛乳砂糖飯から始まった日本代表への足跡

[ 2021年7月6日 08:30 ]

12年に中3で来日する前、母国トンガで目黒学院の竹内圭介監督(中央)と写真に収まるテビタ・タタフ(右)とアタアタ・モエアキオラ(竹内圭介さん提供)
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 一番印象に残ったシーンは?

 直感だけで選ぶなら、全英・アイルランド代表ライオンズ戦の後半32分のシーンを挙げたい。敵陣でSH斎藤からのショートパスを受け取ったNo・8タタフが、1人目を後退させ、2人目をいなし、3人目の名手ダン・ビガーを左の半身だけではね飛ばしたシーンだ。その後、2人に捕まり、ようやくダウンボール。2年後のW杯、大いに可能性があると思うのだが、タタフが正真正銘のスターダムにのし上がったとしたら。そういえば、代表デビューで凄いインパクトあったよね。いや、実はあれ、5年ぶりの代表戦だったんだよ。髪型もなかなかインパクトがあったよね。そんな会話がファンの間で繰り広げられるのではないか。

 19年W杯以来となる活動を終えた日本代表。テストマッチ2試合は少々さみしい試合数だが、ライオンズとアイルランド、いずれ劣らぬ強豪に及第点と言える結果を残した。サンウルブズとの強化試合を含め、各試合48時間前のメンバー発表は、オールドファンもにわかファンも胸を踊らせたはず。W杯までにジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチのセレクション傾向をおおむね理解した記者としては、ある意味で保守的なセレクションも想定内だった。だからこそ、19年組に割って入ってプレータイムを稼いだ斎藤直人やテビタ・タタフ、WTBシオサイア・フィフィタらは、一つ階段を上ったと言える。

 斎藤に関して言えば、アイルランド戦ではわずか2キャップ目、そして代表初先発とは思えぬ堂々たるプレーぶりが印象的だった。試合後、本人が反省しきりだったように、自身が犯したペナルティーやダイレクトタッチをきっかけに、相手トライにつながることもあった。相手キック後のエスコートでは、あまりに露骨なチャージに思わず笑ってしまったが、国際試合の経験を積めば課題は克服できる。初先発のライオンズ戦から2試合目のアイルランド戦と、わずか1週間で見事なまでの変わり身を見せたフィフィタも、今後さらに自分の強みを出せるようになるはずだ。

 そしてタタフはアイルランド戦で姫野和樹が開始10分前に故障という不測の事態を受けて急きょ先発しながら、しっかりと強みを出し、後半にマフィと替わるまで役割を全うした。3人とも、若さは見えた。ただそれは新戦力に許される、ある意味での特権だ。たくさん失敗しても、まずはしっかりと自分の強みを出すこと。おそらくそこを注視していたジョセフHCは、秋ももちろん、3人を招集し、先発ジャージーを争わせることになる。

 5月下旬に大分県別府市で始まった代表合宿。実に5年ぶりに招集され、一番きつい練習を「フィットネスです」と苦笑いして答えたタタフの公称体重は124キロ。厳しいと言われるサントリーよりもさらに厳しいハードワークで、6月5日にオンライン取材に応じた時点の体重を121キロと答えた。それからさらに絞ったのか、横ばいか、あるいは増えたのか。いずれにしても、速度が上がっていない状態でもタックラーをなぎ倒すパワーには、今後へ大きな可能性を感じた。

 ケガで戦線離脱期間が長かったトップリーグを含め、今年の活躍の原動力になっているのが、中学3年の冬にトンガから一緒に来日したアタアタ・モエアキオラ(神戸製鋼)の存在だろう。モエアキオラは出場機会がなかったとはいえ、19年W杯代表に選出されている。ライオンズ戦後、「一緒に(19年W杯に)出たかった。次のW杯へ頑張りたい」と同時出場を夢見るからこそ、思いがプレーで体現されたに違いない。

 「1年生の頃はテビタと比較されて、パワープレーというか、トンガ人留学生に求められるようなプレーに関しては下だったので、そこはフラストレーションがたまっていたと思う。何度、タイプが違うと説明しても、トンガ人の誇りが許さないのか、やろうとする。高校日本代表に選ばれたのも、タタフが1年でアタは2年から。1年の時は長い間(タタフが高校代表活動で)いなくて、相当悔しがっていた」

 以前、2人の母校である目黒学院高の竹内圭介監督(2人の在学時はコーチ)が語っていたモエアキオラ像が、逆にタタフのプレーヤー像を浮かび上がらせる。トンガ時代は中学生の砲丸投げチャンピオン。東海大では4年生の時に主将を務めたモエアキオラを「まじめで人間性が高く、周りに気を使える」と称える一方、タタフに関しては「大学での最初の試合だったか、隣で並んでいるアタは校歌を歌っているのにテビは歌ってないとか、ソックスを上げろとか。タタフにはそんなことばかり言っていた」とも語っていた。そんな証言も、愛すべきキャラクターを浮かび上がらせる。

 ポジションこそ違うが、モエアキオラはタタフに追いつけ追い越せで、神戸製鋼入りする直前にはスーパーラグビーのチーフスでも活躍し、一足先にW杯代表となった。立場が逆転した2年ぶりの代表活動期間、今度はモエアキオラが沸々と秋へのモチベーションを高ぶらせていることだろう。

 テビとアタ。15歳で来日し、当初はどんぶり飯に砂糖と牛乳をかけて食べていたという2人は、夢の実現へ切磋琢磨(せっさたくま)を続けていく。(記者コラム・阿部 令)

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2021年7月6日のニュース