サンクスツアー最終日に見た、浅田真央さん不変の芯

[ 2021年5月8日 08:00 ]

4月27日、「浅田真央サンクスツアー」で「蝶々夫人」を演じる浅田真央さんの頬には一筋、万感のラインが(撮影・小海途 良幹)
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 「今の、ちょっと離れすぎていたよね!?」

 観客のいない横浜アリーナに、浅田真央さんの声が響いた。4月27日、自身が主役のアイスショー「浅田真央サンクスツアー」の最終日。公演の4時間半前、午後2時から始まった最後の練習でのことだった。

 冒頭の言葉が出たのは、女性スケーター陣がグループナンバーの振り付けをチェックしている時。真央さんはスケーター同士の距離のズレを察知し、すぐに指摘した。ツアーは最終公演で通算202回。練習で息を合わせた回数は、その何倍にも上る。頭で体で、動きは覚えているに違いない。それでもなお、完璧を見据えて改善を促した。

 ブラッシュアップ。かつて真央さんが好んで使っていた言葉を、仲間に求めるだけでなく、自らも体現していた。練習では丁寧に体をほぐした後、ダブルアクセルや3回転ループを次々に跳ぶ。失敗はしない。最高のショーを最後に見せる。現役時代と変わらない真剣な眼差しと妥協のない姿勢で、準備を整えた。

 午後6時半、ラストダンスの幕が上がる。黒いマントに身を包むオープニング。17年4月の現役引退後、自分は何をしたいのか、何をするべきなのか。悩んで暗闇に陥った当時を表現する。マントを脱ぎ捨てると、キラキラと輝く衣装。雰囲気は一変し、「Smile」で笑みが弾けた。

 真央さんが過去に舞ったプログラムを、他のスケーターもまじえながら演じていく。感情を込めた「蝶々夫人」では、演技中に涙が頬を伝った。「ピアノ協奏曲第2番」のステップでは日本に感動を呼んだ14年ソチ五輪を再現。約80分の全シーンがハイライトだった。

 柔和な笑みと悔し涙があった現役時代。真央さんの世界は「モノクロみたいなイメージだった」と振り返る。1人、勝負のリンクに立って金メダルという結果を追い続けた。それは、孤独な闘いだった。

 18年5月に始まったツアーではカラフルな世界が待っていた。「この3年はいろんなカラーがあって、本当に色鮮やかで」。仲間とツアーのリンクに立って、ファンに感謝を届けてきた。それは、孤独とは無縁の旅だった。

 公演のラスト、場内スクリーンに各スケーターから真央さんへのメッセージが流れ、真央さんはマイクを握った。

 「サンクスツアーは今日で終わりを迎えましたが、私たちは、また新たなスタートだと思っています。また、みなさんの前で元気な姿をお見せできるように、これから前に進んでいきたいと思いますので、みなさまどうぞこれからも応援の方、よろしくお願いいたします。本当に幸せで最高な時間でした。あらためまして、本当にありがとうございました」

 あいさつを終えると4年前に都内のホテルで行った引退会見の終盤と同様に、そっと涙をぬぐった。違ったのは、視線の先には仲間が、会場には多くのファンがいたこと。「たくさんの愛にあふれている空間が、すごく好きでした」。笑って泣いて、感謝の旅はゴールを迎えた。

 今後は子どもたちのための〝真央リンク〟の創設や、自然に囲まれた田舎での生活など新たな夢を追う。妥協を許さず、感情豊かに。これまでと同じスタイルで、これからも人生の旅を続けていく。(記者コラム・杉本 亮輔)

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