IOCはパンドラの箱を開けるのか

[ 2020年10月26日 09:00 ]

IOCのバッハ会長(AP)
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 頭を悩ませているのではないか…。国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長が、五輪での政治的な意見表明に懸念を示したという。

 24日付の英紙ガーディアンによれば、バッハ会長は「五輪は第一にスポーツの大会。選手は卓越性、団結、平和の価値を体現する」と強調。その上で「全員が敬意を示し、互いに団結した場合のみ大会の求心力は高まる。でなければ五輪は世界を分断する、あらゆる種類の宣伝の場に成り下がる」と指摘した。

 今年、世界的に大きなうねりとなった黒人差別反対運動「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大事だ)」を受けて五輪会場での政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を禁じる五輪憲章第50条の撤廃を求める声が高まった。IOCも選手委員会と協議して表現方法の検討を始めている。

 黒人差別に抗議して68年メキシコ五輪陸上男子200メートルの表彰台で黒い手袋をした拳を突き上げた2人の黒人選手は大会から追放されたが、今後は同様のケースで処分されることはなくなるのかもしれない。女子テニスの大坂なおみが優勝した全米オープンで試合ごとに銃撃事件などの被害者名が入ったマスクを着用した際に多くの共感を集めたように、人種差別に対する抗議行動に反対する声は上がらないように思う。

 ただ、どの問題をどこまで扱うことが認められるのか。どの表現が良くて、どの表現が悪いのか…。IOCはNFLで16年に当時49ersに所属していたQBキャパニックが国歌斉唱時の片膝をつく抗議行動を行ったことに関連し、今年1月に人種差別に抗議するジェスチャーは処分対象となる可能性があるというガイドラインを作成した。現在、対応を見直しているところだが、はたして着地点は見つかるのだろうか。世界陸連のセバスチャン・コー会長は片膝をつく行為に関し「私たちとしてはサポートしていく姿勢」と容認を後押しするが、1つ認めれば収拾がつかなくなる可能性もある。

 22年北京冬季五輪に向けては、複数の国際的な人権団体が中国国内での人権侵害や弾圧を理由に開催権はく奪を求めている。香港に加えてウイグル族、チベット族など多くの問題を抱える中国は火薬庫さながらだ。世界を見渡せば政治的、宗教的、人種的な問題を抱える国は数え切れないほどある。五輪憲章第50条の見直しは、パンドラの箱を開けることになりはしないか。

 「選手は競技と表彰の際、政治的に中立であることで(他者を受け入れる)包括性と相互の敬意を表現する」とも話すバッハ会長は、本心では第50条には手を付けたくないのだろう。五輪が「平和の祭典」を標榜するのであれば、主義主張が対立する場になってはならない。(東 信人)

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