止まらない技術の進化 世界初の“穴あき義足板バネ”誕生

[ 2020年9月9日 08:30 ]

<日本パラ陸上競技選手権最終日>女子100メートル(義足T64)で優勝した高桑早生(撮影・小海途 良幹)
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 パラスポーツ界に技術革命が巻き起こった。スポーツ用品大手のミズノと福祉機器メーカーの今仙技術研究所は、今年9月4日に共同開発によってトップアスリート向け義足板バネ「KATANAΣ」(カタナシグマ)の完成を発表。板バネの先端中央部分に、ドーナツのような穴が開いた設計が特徴となる、前代未聞のデザインだった。

 陸上の短距離と走り幅跳び選手用に開発。実際に装着し、パラリンピック3大会連続出場を目指している高桑早生(28=NTT東日本、義足T64)は、「おお、こう来たかって感じ」と初めて現物を見たときの感想を振り返る。

 世界初の革新的なアイデアを可能にしている技術とは何か。開発に携わったミズノ研究開発部の宮田美文さんと、今仙技術研究所の義肢装具士である浜田篤至さんに話を聞いた。

 誰もが目を引く大胆なフォルムについて、宮田さんは「硬さを保ちながら無駄な肉を減らしたら、こういう形になりました」と語る。横幅8センチの先端部分に最大4センチの穴が設けられた目的は、軽量化と空気抵抗の軽減。「ウインドトンネル構造」と名付けられた設計は一見するとすぐに折れてしまいそうな見た目だが、従来品より強度は2倍にアップし、質量は572グラムと約15%の軽量化に成功。体積が半分になっている分、硬さを倍にすることで一般的な板バネと同等の強度を再現しつつ、トップ選手が使用する板バネとしてはかなりの軽さを実現した。

 さらに穴の中央に向かって斜めにカットされた樹脂(エアロデフレクター)を後付けで周りに覆うことで、前に振り出す際の空気抵抗を約31%削減。1番荷重がかからず、空気抵抗を受けやすいとされる先端部分に穴を設けることで、振りやすさを示す慣性モーメントは約10%小さくなった。浜田さんは「1番効果のある場所を効果的に削って軽量化し、空気も流すことができている」と説明した。

 9月5、6日に埼玉県熊谷市で日本パラ陸上選手権が開催された。高桑は女子100メートルに出場し、「KATANAΣ」は公式戦デビュー。タイムは13秒76と、自己ベストの13秒43には届かなかったが「走っていて無駄が無いと感じます」と好感触だった。

 ミズノと今仙技術研究所の共同開発は14年8月から始まり、高桑も当初から選手として参加。これまで海外製の大きな板バネを使用していたが、身長1メートル57の高桑は扱いづらさを感じていた。「これは日本人の体格に合ったもの。やっと試合で使えるものが出てきた」と喜びを語り、今年7月から練習で使用していることを明かす。「短距離はこの板で東京パラを目指している。延期になった1年でじっくりと向き合っていきたい」。新たな技術との調和に、前向きな姿勢を見せた。

 「KATANAΣ」の制作は、17年頃から開始。約3年間で試作品は30~40本に及ぶ。高いもので1本数百万円をかけて作り上げた試作品の多くは、2歩進むだけで折れてしまうほどもろかった。19年に原型が完成し、今年春から高桑に使用してもらう予定が新型コロナの影響でお披露目が遅れた。今後の課題は専用のスパイクソールの開発。来年4月30日には販売が開始される。

 パラスポーツ界の競技力向上とともに、テクノロジーの発展も進む。男子走り高跳びで東京パラ内定の鈴木徹(40=SMBC日興証券、義足T64)からは、コーナー部分の助走強化を目指して先端部分が三つまたに分かれた板バネをオーダーされているという。

 「形にこだわらず、これからいろんなモデルに今回の技術をどう乗せていくかが課題になる」。そう熱く語る浜田さんたち技術者の飽くなき探究心は、とどまることを知らない。(記者コラム・小田切 葉月)

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