「サンウルブズ」の名を継承するに相応しい存続のあり方を

[ 2020年6月3日 10:00 ]

今年2月15日、東京・秩父宮でチーフスと対戦したサンウルブズ
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 もしあの日、提出が間に合わなかったら、その後の未来はどうなっていただろう。今でも時々、想像をめぐらせる。それはまだ、サンウルブズというチーム名も決まっていなかった時期の出来事だ。

 2015年8月31日。W杯イングランド大会の日本代表スコッド31人が発表されたその日は、日本がスーパーラグビーに新規参入するため、契約選手リストなどを運営団体のSANZAARに提出する期限だった。当時の日本代表選手を中心に編成する予定だったものの契約に難航し、これを発端に続投が既定路線だったエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(当時)はW杯後の退任が決定。いよいよ期限が差し迫った8月、具智元ら当時まだ大学生だった選手をかき集めている状況を知った堀江翔太が周りの代表選手を説得し、契約に結び付けた話は語り草だ。

 当日、午後の代表発表会見、夕方からの壮行式の取材を終え、向かったのは秩父宮ラグビー場敷地内にある日本協会。小雨が降り、夜が深まる中、バタバタし始めた協会関係者の表情は焦燥感に満ちていた。提出完了はまだか。日付が変わる30分前、ようやく完了したとの一報。その後、協会内から出てきた当時の幹部は「リストのPDF化に時間が掛かった。1時間半」と説明した。隣接する日本スポーツ振興センター(JSC)のパソコンも急きょ借りての作業だったという。機器の不具合やトラブルは、いつ何時も起こり得ること。一方、たかだかそんなことで、日本ラグビーの未来が変わっていたかも知れないと思うと、今でも背筋が凍る思いがする。

 昨年のW杯、日本代表は史上初の8強入りを果たし、サンウルブズの存在意義や目的は十二分に果たされた。加えて2日のオンライン記者会見で渡瀬裕司CEOが「どこにもない応援カルチャーを作ってくれた」、大久保直弥ヘッドコーチが「国境を越えて団結するアイデンティティーは評価されていい」と言ったように、日本ラグビー界に想像以上の付加価値をもたらした。

 昨年3月に当初の参戦契約が満了する今シーズン限りでのリーグ除外が決定した後、さまざまな活路が検討され、水面下の交渉も行われてきた。ちょうど1年前には、キャンベラ(オーストラリア)が本拠地で財政難にあえぐブランビーズとの合併案が浮上し、下交渉が進められた。その後、21年秋開幕を目指すトップリーグに代わる新リーグへの参入が浮上したかと思えば、W杯で日本が8強入りを果たした後には、いちるの望みに懸けてSANZAARと再交渉も、従来通りに年間10億円もの参加料の支払いを求められた。結局、そのどれもが実現しなかった。チーム運営団体としても、今後は日本協会の一部署に縮小される可能性があるという。

 新型コロナウイルスの影響もあり、いま世界のラグビー界は大きな地殻変動の真っ只中にある。テストマッチの時期は10、11月の連続2カ月に集約が検討され、北半球の欧州6カ国対抗、南半球のラグビーチャンピオンシップも同時期開催が議論の俎上(そじょう)に載せられている。海外では近い将来のスーパーラグビー再々編が報じられ、来年はトップリーグの上位2チームがスーパーラグビーの上位チームとプレーオフを戦う計画まで浮上。イングランド協会の元幹部が提唱した“コロナ救済大会”は、公になった翌日にはWRが真っ向否定する声明を出すドタバタ劇もあった。各国協会、各団体の思惑が絡んだ、さながら仕手戦の様相は、今のところ着地点が見えない。

 国内で21年秋以降の開幕を目指す新リーグ創設が計画され、スーパーラグビーに代わる代表強化の根幹に据えようとする中、現状で帰属リーグのないサンウルブズを存続させる場合、どんな存在意義を持たすのか。昨年6月の体制一新で、国際交渉力が格段に上がった日本協会が、再びSANZAARとタフな交渉をするのか。あるいは岩渕健輔専務理事が常々口にするように、従来のように既存のリーグに乗っかるのではなく、自ら新たなリーグを創設して居場所を与えるのか。

 5シーズンで通算9勝1分け58敗。記録的な大敗を何度も喫し、毎シーズン選手が入れ替わりながらも、これだけファンから愛されたラグビーチームは、過去には存在しなかった。なぜか。それはチームが、選手1人1人が、世界に挑戦する姿勢が共感を呼んだからだ。仏作って魂入れず、では悲しい。5年間の挑戦の歴史を貶めないためにも、「サンウルブズ」の名を継承するに相応しい存続のあり方を検討し、実現してもらいたい。(記者コラム・阿部 令)

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