追悼連載~「コービー激動の41年」その96 レイカーズにあわやの大惨事 奇跡の着陸
コービー・ブライアントが入団する36年前となった1960年1月18日。レイカーズの選手、スタッフ一行を乗せた専用機「DC―3」は電気系統の故障で危機的な状況に追い込まれた。セントルイスを飛び立ったあとミネアポリスに戻るはずだったが、冬の空の中で北斗七星を肉眼で探して「北」を確認。しかし燃料が底をつきかけたために高度を下げた。
「危ない!」。突然、バーン・ウルマン機長が操縦桿を引いた。目の前には大きな木。ハロルド・ギフォード副操縦士は「翼が木に接触する直前だった」と語っている。つまり今のレイカーズが存在しているのは今から60年前、木をうまくよけたウルマン機長の“ナイス・リカバリー”があったからだ。この樹木へのニアミスのあともDC―3は低空飛行を続ける。機長はハイウエーを探した。そこを着陸のための滑走路にしようとしたのである。しかしギフォード副操縦士の考えは違った。
「自分の実家は農家です。それでひらめきました。ハイウエーでは石や溝があって危険です。でもそこなら雪がクッションとなってくれます」
機長の操縦テクニックの次にレイカーズを助けたのは、副操縦士の素晴らしい判断だった。ミズーリ州セントルイスからミネソタ州ミネアポリスに向かっていく途中にあるのは何州だかご存じだろうか?コンパスが機能しなくなって正確な位置はわからなかっただろうが、そのあたりの地理にピンと来たのが農家出身のギフォード副操縦士だった。
そこはミネアポリスの南346キロにあるアイオワ州キャロルという町の郊外。アイオワ州と言えば、映画「フィールド・オブ・ドリームス」の舞台となった一面のトウモロコシ畑が有名。機長は副操縦士のアドバイスを受け入いれて最後の賭けに出る。着陸目標は雪に埋もれた畑だった。
ウルマン機長は座ったまま左側の窓を開け、肉眼で進路を確認。急いで車輪を出した。高度はないに等しい。だがその畑に突っ込まないと、永遠にレイカーズの選手はコートに立つことはなかった。数秒間で態勢を整え緊急ランディング。機内に衝撃が走る。ドン、ドン。大きな音がして機体がはねた。しかし新雪のおかげで短時間で減速。90メートルほど滑走してストップした。
機内には歓声が上がる。不時着したときの写真は地元紙などに掲載されているが、雪をかぶって枯れているトウモロコシの茎と大きなプロペラを持つDC―3という実にアンバランスでありえない被写体の組み合わせ。この悪夢のフライトを描いたギフォード副操縦士による著書が2013年に刊行されているが、タイトルは「THE MIRACLE LANDING(奇跡の着陸)」で、サブタイトルには「ミネアポリス・レイカーズが1月の嵐の中でアイオワのトウモロコシ畑でどのように消滅しそうになったかについての真の物語」と記されている。
さて“奇跡の着陸”のあとすぐに非常口からエルジン・ベイラーら選手が降り、続いて子供たちが脱出。それを見届けて最後に降りたのがジム・ポラード監督だった。やがて不時着現場には人口はわずか1万人ほどだったキャロルの町から人々がそぞろ集まり始める。「何が起こった?」。最初に到着したのは、たまたま畑近くを通りかかった葬儀店のスタッフ。乗っていたのはもちろん霊柩車だった。ポラード監督は「飛んでいるときも着陸後でもそれほど恐怖感はなかった。でも非常口から降りてきたら霊柩車が待っていた。このとき、ああ死ぬ寸前だったんだと思ったよ。震えが止まらなかった」と当時の模様を語っている。もちろん葬儀店のスタッフはレイカーズの選手を待っていたわけではない。ただあまりの偶然(きついジョーク?)に監督も選手も言葉を失ってしまったようだ。
実はこの2年前となる1958年の2月。サッカーの名門クラブ、マンチェスター・ユナイテッドの主力選手を乗せた専用機がミュンヘン国際空港を離陸後に墜落。乗客43人のうち8選手を含む23人が死亡している。チーム再建には10年の歳月がかかっており、レイカーズも同じような悲劇に見舞われるところだった。
そしてアイオワの雪は選手たちを運命の場所に導いていく。窓からのぞくと今度はトウモロコシ畑ではなく、ロッキー山脈が眼下に広がっていた…。そう、生き延びたレイカーズはついに西海岸にたどりついた。(敬称略・続く)
◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。NFLスーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会には一昨年まで8年連続で出場。フルマラソンの自己ベストは2013年東京マラソンの4時間16分。昨年の北九州マラソンは4時間47分で完走。
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