運命の糸に導かれたミスパーフェクト宮原と「鍵盤の魔術師」

[ 2019年3月25日 05:30 ]

フィギュアスケート世界選手権エキシビション ( 2019年3月24日    さいたまスーパーアリーナ )

<世界フィギュア・エキシビション>天女のように舞う宮原(撮影・長久保 豊)
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 宮原知子(20=関大)が凜(りん)とした演技で観衆を魅了した。今大会の6位は、ここ数年の日本女子を引っ張ってきたエースの本来の力ではない。「鍵盤の魔術師」との出会いを糧にして、来季はさらなる飛躍を目指す。

 偶然の巡り合わせだった。4位だった昨年2月の平昌五輪。テレビ越しに、宮原の演技に心を奪われる人がいた。世界的なピアニストのジョン・ベイレスさん(米国)だ。

 フリーの「蝶々夫人」は、同氏の編曲、演奏によるものだった。自分が若い頃に手がけた曲が五輪で流れている。それだけで十分な驚き。その上、小柄なアイススケーターは、華麗な演技でメダル争いをした。胸を打たれた。

 会えないだろうか―。

 人伝いに舞い込んだオファーに、宮原は喜んで応じた。昨年7月、北米合宿中に足を延ばして会いに行った。

 この物語は1話完結ではなかった。

 ピアノ・リサイタルに来てくれないか―。

 1月、都内で日本公演。ゲストとして招かれ、今度は宮原の心が動かされた。ベイレス氏は、病気の後遺症で右半身が自由に動かない。左手1本の演奏とは思えない豊かなメロディーが、ホールに響いた。体に電気が走った。

 その3週間前の全日本選手権は3位だった。5連覇を逃した。スケート靴のエッジが曲がっていた影響が大きかったとはいえ、結果は結果。落ち込んだ。

 沈んだ気持ちが、「左手の演奏」で晴れた。母・裕子さんは「それから開き直った」と、娘の熱気を感じ取った。

 世界選手権で、今季の個人戦が終了した。ジャンプの改良に取り組み、苦労したシーズンだった。来季の計画は基本的に白紙。だが、同氏とのコラボには魅力を感じている。

 ハワイで、生演奏を背に滑る夢プラン。常夏の島にもアイスリンクがあるそうだ。再びプログラムの曲にしたい考えもある。2月のババリアン・オープンで優勝した後、帰国時にこう打ち明けた。

 「ピアノ・リサイタルは本当に感動しました。ピアノ曲は難しそうかなという印象でしたけど、いろいろな曲を聞いて、滑る曲にチャレンジをしてもいいかなと思いました」

 競技に対しても、人に対しても、真摯(し)で丁寧な宮原だからこそ、人を引き寄せるのだろう。26日に21歳になる。完成形はまだ先。銀盤と鍵盤の交流はきっと、観衆を魅了する演技へとつながっていく。  

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