×

エメラルドグリーンの水面と青目のヘラ モデルとなった“謎のフナ”を追って秋田・貝沼へ

[ 2023年10月21日 07:20 ]

貝沼は透明度が高く、松など周囲の緑が映り込んでエメラルドグリーンの水をたたえているように見える
Photo By スポニチ

 【「釣りキチ」誕生50年 三平探訪】釣り漫画の名作で故矢口高雄氏の「釣りキチ三平」誕生50年を機に、ゆかりの地や対象魚に挑戦する釣りルポ第2弾。今回は「カルデラの青鮒(あおぶな)」の舞台となった秋田県湯沢市の貝沼を訪れ、モデルとなった謎の“青いフナ”を追った。(岩田 浩史)

 麓の集落から、木々の生い茂る急な坂道を上り切ると、山々に囲まれた幽玄な貝沼の姿が現れる。外周約2キロの南北に細長い湖面は、森の緑が映り込んだエメラルドグリーンの水をたたえている。火山活動でできたくぼ地に水がたまったカルデラ湖。流れ込む川も出ていく川もない。水源は降水と融雪水、湧き水。水質は良好だ。

 南側に転がる無数の岩は大地のうごめきの名残だろうか。この岩陰は青鮒の絶好のすみかになるはずと妄想し、漫画の三平と同じようにヘラブナ用の仕掛けを投入した。

 劇中では全身青で1メートル近い「青鮒」を狙う釣り人でにぎわう貝沼だが、この日の釣り人は5人。地元の釣具店で「ヘラブナなどがいるけど、ベテランですら一匹も釣れない日が多い」と聞いていたので、難易度が高い釣り場なのは承知の上。オデコ覚悟の釣りだ。

 しばらくすると、巨ゴイを狙い車中泊で3日間の釣行中という秋田県大仙市の佐藤洋助さん(25)が声をかけてくれた。「貝沼は昔、コイの養殖をしていたそうです。それが逃げ出したらしく、今でも大きいのがいます」と、見せてくれたのは97センチのコイの画像。気になる青鮒についても聞くと「青みがかったヘラブナが釣れることはあるようです。漫画のように全身真っ青ではないそうですが」と教えてくれた。青鮒は青いヘラブナなのだろうか。とにかく青鮒はいるらしい。絶対釣ってやると燃えてきた。ちなみに「青いコイは見たことありません」という。

 貝沼に青みがかったフナがいるという話は、地元ではかなり以前からあったようだ。「釣りキチ三平」の作者・矢口氏は、漫画家転身前に秋田県で過ごした銀行員時代を描いた自伝的作品「九で割れ!」で、青鮒の噂について触れている。1965年のエピソードだ。

 だが、岩陰を狙う記者のウキは全く動かぬまま時間が過ぎていく。「ボート乗り場跡の周辺が釣れそう」との話を聞き、2時間が過ぎたところで北側に移動することにした。

 間もなく佐藤さんがヘラ師の釣り上げた約30センチのヘラブナを持ってきてくれた。体色は普通の茶褐色のようだが…。ヘラブナを手に取り、魚体をくまなくチェックする。「ちょっと緑っぽい気がするような、しないような…」「気のせいでしょう」「ですよね」。息苦しそうな姿が気の毒になり、ゆっくり水につけ、自力で泳げることを確認してリリースした。

 「それより、どうですか?釣れました?」。お互いの釣況などの雑談をしていると、ウキが一瞬水面に吸い込まれた。「いますね。ここ!」。一気にテンションが上がったが、結局当たりはこの1回だけ。その後3時間、ウキは微動だにしなかった。

 帰りがけの地元ヘラ師2人に聞くと、釣果は0匹と3匹だという。「ここはなかなか釣れない。釣れてもこの程度。ここ10年でブラックバスは増えたけどな」と苦笑い。記者も浅瀬でバスを見て、こんな山中にもいるのかと驚いた。誰かが放流したのだろうか。「他の釣り場でバスが問題になっても、貝沼は大丈夫だと思ってた」と残念そうだった。

 さらに話し込むと、2人は「体の一部が青いのはたまに釣れる」と、目の周りがコバルトブルーのヘラブナの画像を見せてくれた。漫画と同じ全身真っ青ではないが、これが貝沼の青鮒だという。このほか、全身がうっすら青や緑みがかった個体もいるそうだ。…となると、さっきのヘラももしかしたら…

 2人が青さの理由を語った言葉が印象的だった。「青く澄んだ水と景色の中さいるうちにフナ自体も青くなるんじゃねぇか」。くしくも劇中の三平と同じセリフだ。森の緑が溶け込んだような湖で生きるフナたちだ。そんなこともあるのかもしれない。山上湖の美しい景色を目に焼き付け、貝沼を後にした。

 《春から秋に青色に…水や藻に“変色”の原因?》 貝沼では2018年から「湯沢・貝沼青鮒釣り大会」を毎年開催。今年は先月18日に行われ、25人が参加。横手ヘラ研の大関文雄さんが36センチを釣って優勝した。

 大会会長で、湯沢市釣公園協議会の岡田一氏(70)によると「目や鼻、背中が緑がかった青鮒だった」という。貝沼には春先は茶褐色で、夏から秋にエメラルドグリーンやコバルトブルーに変色するヘラブナがいる」という。ヘラは環境によって微妙に色みが違うとされる。「貝沼の水や藻に、青くなる要因があるのかもしれない」と推測した。

 「貝沼で、たくさんの人に楽しい釣りをしてもらいたい」という岡田氏だが、魚影が薄いことが悩みのタネ。「昔、放流をしたことがあるらしいが評判が良くない。環境を変えてしまうことになりかねないのでね。いろいろ調査、相談しながら検討していきたい」としている。

続きを表示

この記事のフォト

バックナンバー

もっと見る