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東京サクラマス復活の希望と夢を乗せて ヤマメ200匹を峰谷川へ放流

[ 2022年3月6日 07:08 ]

放流には親子の参加者が多かった
Photo By スポニチ

 【奥山文弥の釣遊録】その昔、東京都を流れる多摩川にサクラマスがいました。東京湾で成長した魚が奥多摩まで遡上(そじょう)してきたそうです。

 1957年には小河内ダムが完成し、奥多摩湖(正式名「小河内貯水池」)が誕生しました。ダムのおかげで海へ下りられなくなったサクラマスがどうなったのでしょうか?彼らの選んだ道は海へ下りるのをやめるか、奥多摩湖を海の代わりにして回遊し、成長して母なる川へ遡上するかのどちらかです。

 渓流釣りで大人気のヤマメとサクラマスは同じ魚です。ヤマメの一部が海に下り、サケのように回遊して大きく育った魚がサクラマスです。ヤマメ独特の小判型斑紋(パーマーク)はなくなり、銀色の魚体になります。

 奥多摩湖のサクラマスは湖を海がわりにして成長した魚です。以前から知る人ぞ知る貴重な魚でしたが、釣れたという話はまれに聞くことができました。もともとたくさんいるわけでもないので、釣り情報はほとんど出ないし、釣れたという情報で行ってもめったにヒットしない魚でしたからサクラマス狙いの釣り人で奥多摩湖がにぎわうということもありませんでした。

 それが最近ではほとんど聞かれなくなりました。ダム湖へ下りる銀化ヤマメの数自体が少なくなったのか、 多摩川水系の現状は、ダム下本流も、ダムに注ぐ上流の川も漁協によって大量に放流される養殖魚で釣りができているので銀化しやすい魚が放流されなくなったのか?あるいは本質的に湖の水質が悪化するなど環境が悪くなってサクラマスの生育に適さなくなったのか?詳しい理由は分かりません。研究する人がいませんから。

 しかし、奥多摩湖にはコイやフナ、オイカワ、ウグイなどコイ科の魚は豊富で、ワカサギやヨシノボリもたくさんいます。またブラックバスやニジマス なども棲息していますから、一概に湖の環境が悪くなったとは言えないでしょう。

 そういう事実を基に奥多摩湖のサクラマスをよみがえらせようと活動を開始した男がいます。それが奥多摩に魅せられ小田原市から移住してきた菅原和利さんです。

 昨年末、「奥多摩湖のサクラマスについて相談したい」と奥多摩町長・師岡伸公さんの紹介で私に連絡してきました。

 菅原さんは林業会社に勤めるサラリーマンですが、学生時代から奥多摩で生活しています。彼は昨年11月、釣果記録アプリ「アングラーズ」が募集したアングラーズマイスターに1万4000人の中から選ばれた20人のうちの1人。釣り業界を盛り上げるため支給された活動費用を使って奥多摩町小河内地区を流れる峰谷川を管轄する小河内漁協に寄付し、都の農林水産振興財団が運営する「奥多摩さかな養殖センター」からヤマメの稚魚を2000匹購入。同組合の養魚池で飼育しました。

 今回は彼の呼び掛けで集まった50人ほどの参加者とともに飼育したヤマメを峰谷川に放流しました。

 小河内集落の老人から「昔ダム湖から峰谷川に上ってきたサクラマスを見たことがあるという」有力な情報もあります。私自身も湖へ下って回遊中のスモルト(銀化ヤマメ)を釣ったこともあるし、群れで回遊しているのを見たこともあります。そんな昔の話ではありません。

 このプロジェクトは、釣り人に東京サクラマス復活の希望と夢をもたらすほか、過疎になった小河内集落の地域振興になるでしょう。(東京海洋大学客員教授)

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