落語を習う2 どうやって覚えるのか? 噺との格闘が始まった

[ 2024年2月22日 15:45 ]

渋谷教室の生徒さんたち。左端は桂歌若さん、右端は桂歌助さん                               
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 【笠原然朗の舌先三寸】落語を習い始めた。昨年、60歳で定年を迎え、時間に余裕ができたこともある。寄席に通い、落語家にインタビューをして何回も記事にした。「観る」「聴く」「書く」側から「演じる」側に回ってみたい。落語愛が過ぎての末の挑戦だ。

 師匠は故・桂歌丸さんの2番弟子、桂歌助さん。各地でアマチュア落語家のための教室を主宰し、80人ほどの“弟子”がいる。

 私が入ったのは渋谷教室。生徒は10人ほどで稽古は月2回で1回30分。その都度、2500円を払えばよいという極めて良心的なシステムだ。

 さて何を演(や)るか?選んだのは前座噺の名作「たらちね」。

 1回目のお稽古まで1カ月ほど。落語を演じた経験はないし、演劇など、いわゆる「台詞を覚える」ことはこれまでしたことはない。落語はどうやって覚えるのか?本職に聞くのが早道だ。

 テープレコーダーや動画などがない時代の稽古法は「三偏稽古」。まず師匠が噺をやってみせて弟子はそれを覚える。メモをとることは許されない。観て、聴いて必死に覚えて、次回は師匠の前でやってみせる。ダメ出しをくらい3回目で仕上げなくてはならない。

 一話を演じる時間は通常、寄席にかける時の「尺」で10~30分。3回で仕上げるのは至難の業だが、それだけ集中して噺を頭に叩き込め、ということ。だが「三偏稽古」にもぬけ道はあったようで、すでにその噺を仕上げている兄弟子にこっそり教わったりしてもしていたようだ。

 いまは違う。インタビューの際に落語家・昔昔亭A太郎さんに聞いてみた。

 「師匠はどうやって噺を覚えるのですか」

 「演ってもらったものを録音してから聞き直し、文字に起こしてから覚えていますね」

 地味な作業だが、書いて覚えるのは受験勉強でも同じだ。

 本来なら私の師匠である桂歌助さんに演ってもらい、それを動画にでも撮って覚えるべきだろう。だが最初のお稽古のとき、「六十の手習い」が単なる伊達や酔狂ではない、という意気込みをみせたい。

 「師匠、最初の稽古まで噺を自分なりに覚えてみてもいいでしょうか?」

 「いいですよ」と言ったか言わないか。歌助さんはお酒が大好き。酒席でもあり師匠は半分、酔って聞いていたから承諾を得た、ということにした。

 幸いなことにYouTubeを検索すると、「たらちね」の動画がいくつかあがっている。5代目柳家小さん、5代目三遊亭円楽、先代の林家三平、柳家喬太郎、春風亭一之助らそうそうたる面々だ。勝手に行う師匠選び、「この人にしよう」と決めたのは8代目林家正蔵。のちに彦六になった大御所だ。

 滑舌がよくて、江戸弁が聞いていて心地よい。言葉の選び方にごまかしがない。きっちりとした芸だ。

 たとえばこの噺の主人公であるお千代さんは京都のお屋敷で生い育ったから言葉が丁寧だが難しいことを言う。

 「こんちょうはどふうはげしゅうしてしょうせきがんにゅうしほこうなりがたし」

 「こんちょう」は「今朝」、「しょうせき」は「砂」、「がんにゅう」は「眼入」、「ほこう」は「歩行」。

 問題は「どふう」。これをどう説明するのか?「土風(つちかぜ)」という落語家もいるが、正蔵は「どふうというから風怒るだな」とやる。漢字で書くと「怒風」。聞き慣れない言葉で、「土風」とした方がわかりやすい。だが日本語には古来より怒風、暴風、勃風、祥風、災風など風を表す言葉が多くあるという。

 正蔵の「たらちね」を文字起こしする課程で日本語表現の豊かさも学ぶことができた。

 約12分の口演で4800字。噺との格闘が始まった。

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